1.対象法人
いわゆる大企業向け賃上げ促進税制は所定の要件を満たせば、すべての法人がその適用を受けることができる。中堅企業や中小企業であっても要件を満たせば適用を受けることができる。
2.適用要件
(1)概要
以下の要件を満たす必要がある。
- 青色申告の承認を受けていること
- 継続雇用者給与等支給増加割合が3%以上増加したこと
- 大企業の場合は、マルチステークホルダー方針の公表等をしていること
- 賃上げ促進税制の適用を受ける旨の申告書を提出していること
(2)継続雇用者給与等支給増加割合が3%以上増加したこと
大企業向け賃上げ促進税制の適用を受けるには継続雇用者給与等支給増加割合が3%以上増加していなければならない(措法42条の12の5第1項)。継続雇用者給与等支給増加割合は、以下の算式により計算した割合である(措法42条の12の5第1項)。
(継続雇用者給与等支給額 – 継続雇用者比較給与等支給額) ÷ 継続雇用者比較給与等支給額
継続雇用者給与等支給額と継続雇用者比較給与等支給額がポイントであるが、前提として継続雇用者の意義が重要である。継続雇用者とは原則として適用年度及びその前事業年度の期間内の各月分のその法人の給与等の支給を受けた国内雇用者をいう(措法42条の12の5第5項4号、措令27条の12の5第7項1号)。国内雇用者は雇用保険の一般被保険者に限られる(措令27条の12の5第7項かっこ書き)。ただし雇用保険の一般被保険者であっても、継続雇用制度の対象である者は除かれる(措令27条の12の5第7項かっこ書き)。
継続雇用者給与等支給額とは、雇用者給与等支給額のうち継続雇用者に係る金額をいう(措法42条の12の5第5項4号、措令27条の12の5第8項)。雇用者給与等支給額とは、法人の適用年度の所得の金額の計算上損金の額に算入される国内雇用者に対する給与等の支給額をいう(措法42条の12の5第5項9号)。
継続雇用者比較給与等支給額とは、原則として前事業年度に係る給与等支給額のうち継続雇用者に係る金額をいう(措令27条の12の5第9項1号)。給与等支給額とは、法人の事業年度の所得の金額の計算上損金の額に算入される国内雇用者に対する給与等の支給額をいう(措令27条の12の5第9項1号かっこ書き)。
前事業年度の月数が適用年度の月数と異なる場合、継続雇用者の範囲と継続雇用者比較給与等支給額の計算方法が変わるが、詳細は別記事を参照。
(3)マルチステークホルダー方針の公表等
以下の法人はいわゆるマルチステークホルダー方針を公表等しなければ、賃上げ促進税制の適用を受けることができない(措法42条の12の5第1項かっこ書き)。
- 当該事業年度終了の時において、資本金の額又は出資金の額が10億円以上であり、かつ、常時使用する従業員の数が1,000人以上の法人
- 当該事業年度終了の時において常時使用する従業員の数が2,000人を超える法人
マルチステークホルダー方針は公表するだけではなく、経済産業大臣に届出を行い、届出の受理の通知を確定申告書に添付する必要がある。
マルチステークホルダー方針の内容や届出期限などの詳細は別記事を参照。
(4)申告要件
賃上げ促進税制は、確定申告書等に控除対象雇用者給与等支給増加額等、控除を受ける金額及び当該金額の計算に関する明細を記載した書類の添付がある場合に限り、適用される(措法42条の12の5第7項)。
3.控除額
(1)基本的な控除額
大企業向け賃上げ促進税制の適用を受けることができる場合、基本的に控除対象雇用者給与等支給増加額の10%相当額が控除できる(措法42条の12の5第1項)。いくつかの要件を満たせば控除割合を上乗せできる。上乗せは以下の種類に分けることができる。
- 賃上げ割合による上乗せ
- 教育訓練費の増加による上乗せ
- プラチナくるみん等による上乗せ
ただし控除額は法人税額の20%相当額が上限である(措法42条の12の5第1項但書)。
(2)控除対象雇用者給与等支給増加額
①意義
控除対象雇用者給与等支給増加額とは、法人の雇用者給与等支給額からその比較雇用者給与等支給額を控除した金額をいう(措法42条の12の5第5項6号)。
②雇用者給与等支給額
雇用者給与等支給額とは、法人の適用年度の所得の金額の計算上損金の額に算入される国内雇用者に対する給与等の支給額をいう(措法42条の12の5第5項9号)。
③比較雇用者給与等支給額
比較雇用者給与等支給額とは原則として法人の前事業年度の所得の金額の計算上損金の額に算入される国内雇用者に対する給与等の支給額をいう(措法42条の12の5第5項11号)。例外的に前事業年度の月数が適用年度の月数を超える場合は計算方法が変わる(措法42条の12の5第5項11号かっこ書き)。
前事業年度の月数が適用年度の月数を超える場合は、当該前事業年度に係る給与等支給額に当該適用年度の月数を乗じてこれを当該前事業年度の月数で除して計算した金額が比較雇用者給与等支給額となる(措令27条の12の5第18項1号)。
前事業年度の月数が同号の適用年度の月数に満たない場合は当該前事業年度が6月以上かどうかで異なる。当該前事業年度が6月に満たない場合、前一年事業年度に係る給与等支給額の合計額に当該適用年度の月数を乗じてこれを前一年事業年度の月数の合計数で除して計算した金額が比較雇用者給与等支給額となる(措令27条の12の5第18項2号イ)。前一年事業年度とは当該適用年度開始の日前一年(当該適用年度が一年に満たない場合には、当該適用年度の期間)以内に終了した各事業年度をいう(措令27条の12の5第18項2号イ)。当該前事業年度が六月以上である場合は当該前事業年度に係る給与等支給額に当該適用年度の月数を乗じてこれを当該前事業年度の月数で除して計算した金額が比較雇用者給与等支給額となる(措令27条の12の5第18項2号ロ)。
(3)賃上げ割合による上乗せ
継続雇用者給与等支給増加割合が高い場合、税額控除割合が上乗せされる(措法42条の12の5第1項1号)。
継続雇用者給与等支給増加割合が4%以上 | 5%上乗せ |
継続雇用者給与等支給増加割合が5%以上 | 10%上乗せ |
継続雇用者給与等支給増加割合が7%以上 | 15%上乗せ |
(4)教育訓練費の増加による上乗せ
①上乗せ要件
次の要件をすべて満たした場合、税額控除割合が5%上乗せされる(措法42条の12の5第1項2号)。
- 当該法人の当該事業年度の所得の金額の計算上損金の額に算入される教育訓練費の額からその比較教育訓練費の額を控除した金額の当該比較教育訓練費の額に対する割合が10%以上であること
- 当該法人の当該事業年度の所得の金額の計算上損金の額に算入される教育訓練費の額の当該法人の雇用者給与等支給額に対する割合が0.05%であること
②教育訓練費
教育訓練費とは法人がその国内雇用者の職務に必要な技術又は知識を習得させ、又は向上させるために支出する費用で次の区分に応じそれぞれに定めるものをいう(措法42条の12の5第5項7号)。
- 法人がその国内雇用者に対して教育訓練等を自ら行う場合
- 当該教育訓練等のために講師等に対して支払う報酬、料金、謝金その他これらに類するもの(措令27条の12の5第10項1号イ、措規20条の10第5項)
- 講師等の旅費のうち当該法人が負担するもの(措令27条の12の5第10項1号イ、措規20条の10第5項)
- 教育訓練等に関する計画又は内容の作成について当該教育訓練等に関する専門的知識を有する者に委託している場合の当該専門的知識を有する者に対して支払う委託費その他これに類するもの(措令27条の12の5第10項1号イ、措規20条の10第5項)
- 当該教育訓練等のために施設、設備その他の資産を賃借する場合におけるその賃借に要する費用、コンテンツ使用料(措令27条の12の5第10項1号ロ、措規20条の10第6項)
- 法人から委託を受けた他の者が当該法人の国内雇用者に対して教育訓練等を行う場合
- 当該教育訓練等のために当該他の者に対して支払う費用(措令27条の12の5第10項2号)
- 法人がその国内雇用者を他の者が行う教育訓練等に参加させる場合
- 当該他の者に対して支払う授業料、受講料、受験手数料その他の他の者が行う教育訓練等に対する対価として支払うもの(措令27条の12の5第10項3号、措規20条の10第7項)
③比較教育訓練費の額
比較教育訓練費の額とは、法人の適用年度開始の日前一年以内に開始した各事業年度の所得の金額の計算上損金の額に算入される教育訓練費の額の合計額を当該一年以内に開始した各事業年度の数で除して計算した金額をいう(措法42条の12の5第5項8号)。ただし当該各事業年度の月数と当該適用年度の月数とが異なる場合には、当該教育訓練費の額に当該適用年度の月数を乗じてこれを当該各事業年度の月数で除して計算した金額をいう(措法42条の12の5第5項8号かっこ書き)。
(5)プラチナくるみん等による上乗せ
当該事業年度終了時において次のいずれかに該当することにより、税額控除割合が5%上乗せされる(措法42条の12の5第1項3号)。
- プラチナくるみんの認定を受けていること
- プラチナえるぼしの認定をうけていること
その事業年度終了時に認定を受けていればよいため、前事業年度にプラチナくるみんの認定をうけていれば、その事業年度においても上乗せ措置をうけることができる。
(6)控除限度額
賃上げ促進税制の控除額は法人税額の20%相当額が上限である(措法42条の12の5第1項但書)。