譲渡制限付株式報酬に係る所得税

1.譲渡制限付株式報酬に対する報酬としての課税

(1)課税時期

所得税は個人のその年の所得に対して課税される。ある収益がいつの年に帰属するかはいわゆる権利確定主義による。権利確定主義とはある収益についてその収入する権利が確定した年にその収益が帰属するという考え方である。

譲渡制限付株式報酬は譲渡制限が定められており、その制限が解除されるまではその収入する権利が確定したとはいえないため、一般的にその株式が交付された日ではなく、その株式の譲渡制限が解除された日に総収入金額に算入する(平成28年度税制改正の解説)。

(2)収益の金額

一定の譲渡制限付株式報酬に係る収益の金額は、その譲渡制限が解除された日のその譲渡制限付株式の価額とされる。

所得税法上、譲渡制限付株式とは、次に掲げる要件に該当する株式をいう(所令84条2項)。

  • 譲渡についての制限がされており、かつ、譲渡制限期間が設けられていること。
  • その株式の交付を受けた個人が譲渡制限期間内の所定の期間勤務を継続しないこと若しくは当該個人の勤務実績が良好でないことその他の当該個人の勤務の状況に基づく事由又はこれらの法人の業績があらかじめ定めた基準に達しないことその他のこれらの法人の業績その他の指標の状況に基づく事由が発生した場合に、その個人から役務の提供を受ける法人等がその株式を無償で取得することが定められていること

この譲渡制限付株式のうち、以下の要件を満たすものを特定譲渡制限付株式という(所令84条1項)。

  • 譲渡制限付株式が役務の提供の対価として個人に生ずる債権の給付と引換えに個人に交付されるものであること
  • 譲渡制限付株式が実質的に当該役務の提供の対価と認められるものであること。

この特定譲渡制限付株式による報酬は特定譲渡制限付株式の譲渡制限が解除された日における価額により課税される(所令84条1項)。

(3)所得の種類

特定譲渡制限付株式の譲渡制限が解除された場合の所得に係る所得区分は、当該特定譲渡制限付株式等を交付した法人(以下「交付法人」という。)と当該特定譲渡制限付株式等を交付された者との関係等に応じ、それぞれ次による(23~35共-5の2)。

  • (1)特定譲渡制限付株式等が、交付法人との間の雇用契約又はこれに類する関係に基因して交付されたと認められる場合は、給与所得とする。ただし、特定譲渡制限付株式等の譲渡制限が、当該特定譲渡制限付株式等を交付された者の退職に基因して解除されたと認められる場合は、退職所得とする。
  • (2)特定譲渡制限付株式等が、個人の営む業務に関連して交付されたと認められる場合は、事業所得又は雑所得とする。
  • (1)及び(2)以外の場合は、原則として雑所得とする。

取締役等の退任日に譲渡制限が解除され、また、退任と同時に再任する場合には譲渡制限は解除されない譲渡制限付株式報酬については、退任時に退職に起因して解除されたと認められるため、退職所得に該当する(文書回答事例「譲渡制限期間の満了日を「退任日」とする場合の特定譲渡制限付株式の該当性及び税務上の取扱いについて」)。

2.譲渡制限付株式報酬により取得した株式の譲渡時の課税

特定譲渡制限付株式については、その譲渡制限が解除された日における価額がその取得費となる(所令109条1項2号)。