1.返品権付き販売の会計
(1)基本的な取扱い
返品権付きの商品又は製品を販売した場合は、返品されると見込まれる商品又は製品については、収益を認識せず、当該商品又は製品について受け取った又は受け取る対価の額で返金負債を認識する(適用指針85(2))。また返金負債の決済時に顧客から商品又は製品を回収する権利について資産を認識する(適用指針85(3))。この資産を返品資産という。
(2)具体例
単価100、減価70の商品を1,000個販売した。そのうち50個が返品されるものと見込まれる。売上計上時の仕訳は以下のようになる。
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
現金 | 100,000 | 売上 | 95,000 |
返品負債 | 5,000 |
実務上は期末時点で返品負債を計算し、洗替等するのが簡便と思われる。
また顧客から商品又は製品を回収する権利の勘定科目は返品資産とされる。50個返品される見込みであるため、返品資産は3,500計上される。
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
売上原価 | 66,500 | 返品資産 | 3,500 |
棚卸資産 | 70,000 |
2.返品権付き販売の税務
(1)基本的な取扱い
法人税では収益認識基準については対応がなされており、基本的には会計と税務で不一致が生じないよう改正がなされている。しかし返品権付き販売は例外的に会計と税務で処理が異なる取引となっている。
内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上当該事業年度の益金の額に算入すべき金額は原則として資産の販売など資本等取引以外のものに係る当該事業年度の収益の額とされており、当該事業年度の収益の額は原則として一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従って計算する(法法20条2項、4項)。内国法人の各事業年度の資産の販売等に係る収益の額として当該事業年度の所得の金額の計算上益金の額に算入する金額は原則としてその販売若しくは譲渡をした資産の引渡しの時における価額又はその提供をした役務につき通常得べき対価の額に相当する金額である(法法22条の2第4項)。この引渡しの時における価額又は通常得べき対価の額とは、当該資産の販売等につき次に掲げる事実が生ずる可能性がある場合、その可能性がないものとした場合における価額とされる(法法22条の2第5項)。
- 当該資産の販売等の対価の額に係る金銭債権の貸倒れ
- 当該資産の販売等(資産の販売又は譲渡に限る。)に係る資産の買戻し
資産の買戻しには返品権付き販売が含まれる(平成30年度税制改正の改正P.276)。従って法人税では返品負債を控除せず、全額収益に計上される。
返品資産も返品負債を前提とする会計上のものなので、法人税法上も否認されるものと考える。
消費税は収益認識基準に対応していないため、返品負債は考慮しない。
(2)具体例
単価100、減価70の商品を1,000個販売した。そのうち50個が返品されるものと見込まれるものとする。先に見た通り会計上の売上は95,000である。しかし法人税では返品の可能性がないものとするため、税務上の売上は100,000である。また返品負債相当の5,000は返品等が確定した事業年度において税会不一致が解消されるため、差額は別表で加算留保する。
一方会計では返品資産が計上されるため、その分会計上の売上原価が税務上の売上原価に比べ、3,500少なくなる。この不一致も返品等が確定した事業年度において解消されるため、別表で減算留保する。
消費税も返品負債を考慮しないため、課税売上は100,000である。