Ⅰ.組合等損失超過額の損金不算入
1.内容
法人が特定組合員又は特定受益者に該当する場合で、かつ、その組合契約に係る組合事業又は当該信託につきその債務を弁済する責任の限度が実質的に組合財産又は信託財産の価額とされている場合その他の政令で定める場合には、組合等損失超過額は、当該事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入しない(措法67条の12第1項)。
2.対象となる組合等及び信託
(1)対象となる組合等
以下の組合等が対象となる。
- 任意組合(措法67条の12第3項1号)
- 投資事業有限責任組合(措法67条の12第3項1号)
- 外国における任意組合又は投資事業有限責任組合に類する契約(措法67条の12第3項1号)
- 外国における有限責任事業組合に類する組合(措法67条の12第3項1号、措令39条の31第11項)
- 匿名組合(措法67条の12第3項1号、2号)
- 外国における匿名組合に類する組合(措法67条の12第3項1号、2号)
- 当事者の一方が相手方の事業のために出資をし、相手方がその事業から生ずる利益を分配することを約する契約(措法67条の12第3項1号、2号、措令39条の31第12項)
なお日本における有限責任事業組合については措置法67条の12ではなく、67条の13が適用される。
(2)対象となる信託
法人税法第2条第29号に規定する集団投資信託及び法人課税信託を除く信託が対象となる(措法67条の12第1項)。
2.適用される要件
(1)特定組合員の意義
特定組合員とは、組合契約に係る組合員のうち、以下のいずれかに該当する組合員以外のものをいう(措法67条の12第1項)。
- 重要業務の執行の決定に関与し、かつ、当該重要業務のうち重要執行部分を自ら執行する組合員。ただし既に行われた重要業務の執行の決定に関与せず、又は当該重要業務のうち重要執行部分を自ら執行しなかったものは除く。重要業務とは組合事業に係る重要な財産の処分若しくは譲受け又は組合事業に係る多額の借財に関する業務をいい、重要執行部分とは重要業務のうち契約を締結するための交渉その他の重要な部分をいう。
- その組合員の全てが組合契約が効力を生ずる時から組合契約に定める計算期間で既に終了したもののうち最も新しいものの終了の時まで組合事業と同種の事業を主要な事業として営んでいる場合におけるこれらの組合員
(2)特定受益者の意義
特定受益者とは、信託の受益者(法人税法12条2項の規定により受益者とみなされる者を含む。)で、受益者としての権利を現に有するものをいう(措法67条の12第1項)。
(3)その組合契約に係る組合事業又は当該信託につきその債務を弁済する責任の限度が実質的に組合財産又は信託財産の価額とされている場合その他の政令で定める場合
以下の場合をいう(措令39条の31第3項)。
- 組合債務の額のうちに占める責任限定特約債務の額の割合、組合事業の形態、組合財産の種類、組合債務の弁済に関する契約の内容その他の状況からみて、組合債務を弁済する責任が実質的に組合財産となるべき資産に限定され、又はその価額が限度とされていると認められる場合
- 損失補塡等契約が締結され、かつ、当該損失補塡等契約が履行される場合には、当該組合事業による累積損失額がおおむね出資金合計額以下の金額となり、又は当該累積損失額がなくなると見込まれるとき。
- その組合員又は受益者が組合債務又は信託債務を直接に負担するものでない場合
- その組合員に係る組合契約又は損益分配割合の定めの内容、組合員持分担保債務を含む組合債務の額のうちに占める責任限定特約債務の額の割合、組合事業の形態、当該組合員に帰せられる組合財産の種類、組合債務の弁済に関する契約の内容その他の状況からみて、当該組合員が組合債務を弁済する責任が実質的に当該組合員に帰せられる組合財産となるべき資産に限定され、又はその価額が限度とされていると認められる場合
- その組合員につき、組合事業に係る損失補塡等契約が締結され、かつ、当該損失補塡等契約が履行される場合には、その組合員の当該組合事業による組合員累積損失額以下の金額となり、又は当該組合員累積損失額がなくなると見込まれるとき。
- 上記の場合に準ずる場合
用語の意義は以下の通り。
組合債務 | 組合事業に係る債務 |
責任限定特約債務 | 組合債務のいずれかにつきその弁済の責任が、特定の組合財産に限定されている場合、組合財産の価額が限度とされている場合その他これらに類する場合における当該債務 |
損失補填等契約 | 組合事業について損失が生じた場合にこれを補塡することを約し、又は一定額の収益が得られなかった場合にこれを補足することを約する契約その他これに類する契約 |
累積損失額 | 当該組合事業の各計算期間の損失の額の合計額が当該各計算期間の利益の額の合計額を超える場合のその超える部分の金額 |
出資金合計額 | 各組合員が出資をした金銭の額及び金銭以外の資産の価額の合計額 |
信託債務 | その信託の受託者が信託財産に属する財産をもって履行する責任を負う債務 |
組合員持分担保債務 | 組合員となる者がその組合契約に基づく出資を履行するために組合財産に対する自己の持分その他組合員が有することとなる権利を担保として行った借入れに係る債務 |
組合員累積損失額 | 組合事業の各計算期間の損失の額のうちその組合員に帰せられるものの合計額がその各計算期間の利益の額のうち当該組合員に帰せられるものの合計額を超える場合のその超える部分の金額 |
3.組合等損失超過額
(1)基本的な定義
組合等損失超過額とは、原則としてその法人のその事業年度の組合等損失額のうち調整出資等金額を超える部分の金額に相当する金額をいう(措法67条の12第1項、措令39条の31第5項)。ただし組合事業又は信託の最終的な損益の見込みが実質的に欠損となっていない場合において、当該組合事業又は当該信託の形態、組合債務又は信託債務の弁済に関する契約、損失補塡等契約その他の契約の内容その他の状況からみて、当該組合事業又は当該信託の信託財産に帰せられる損益が明らかに欠損とならないと見込まれるときは、当該組合等損失額がそのまま組合等損失超過額となる(措法67条の12第1項かっこ書き、措令39条の31第6項)。
(2)組合等損失額
組合等損失額とは、組合事業又は信託による組合等損金額が当該組合事業又は当該信託による組合等益金額を超える場合のその超える部分の金額をいう(措法67条の12第1項、措令39条の31第4項)。組合等損金額とは、一定の規定を適用しないで計算した場合のその事業年度の所得の金額の計算上損金の額に算入される金額のうち、当該組合事業に帰せられる部分の金額又は当該信託の信託費用帰属額に係る部分の金額をいう(措令39条の31第4項かっこ書き)。組合等益金額とは、一定の規定を適用しないで計算した場合のその事業年度の所得の金額の計算上益金の額に算入される金額のうち、当該組合事業に帰せられる部分の金額又は当該信託の信託収益帰属額に係る部分の金額をいう(措令39条の31第4項かっこ書き)。
(3)調整出資等金額
調整出資等金額とは、組合契約に係る組合員又は信託の受益者である法人のその組合事業又は信託に係る①と②、③の合計額から④、⑤を減算した金額をいう。
- ① 最終組合損益計算期間等終了時までに当該組合契約又は信託行為に基づいて出資又は信託をした金銭の額(組合員持分担保債務がある場合にはその額に相当する金額を控除した金額とし、金銭若しくは現物資産と負債を併せて出資をした場合又は資産の信託と併せて委託者の負債を信託財産に属する負債とした場合にはこれらの負債の額を減算した金額とする。)
- ② 最終組合損益計算期間等終了時までに当該組合契約又は信託行為に基づいて出資又は信託をした現物資産に係る次に掲げる金額の合計額
- イ 当該現物資産の価額に当該組合契約に係る他の組合員の当該組合事業に係る組合財産持分割合を合計した割合又は当該信託の他の受益者の当該現物資産に係る信託財産持分割合を合計した割合を乗じて計算した金額
- ロ 当該法人の当該出資又は当該信託の直前の当該現物資産の帳簿価額に当該法人の当該組合事業に係る組合財産持分割合又は当該現物資産に係る信託財産持分割合を乗じて計算した金額
- ③ 当該法人の当該事業年度前の各事業年度における一定の利益積立金額のうち、当該組合事業に帰せられる部分の金額又は当該信託の信託損益帰属額に係る部分の金額の合計額
- ④ 最終組合損益計算期間等終了時までに分配等として交付を受けた金銭の額
- ⑤ 最終組合損益計算期間等終了時までに分配等として交付を受けた現物資産に係る次に掲げる金額の合計額を加算した金額
- イ 当該現物資産の価額に当該分配等の直前の他の組合員の当該組合事業に係る組合財産持分割合を合計した割合又は当該信託の他の受益者の当該現物資産に係る信託財産持分割合を合計した割合を乗じて計算した金額
- ロ 当該法人の当該分配等の直前の当該現物資産の帳簿価額
別表九(二)においては①及び②は「出資又は信託をした額」、③は「組合利益積立金額等」、④及び⑤は「分配額」とされる。
用語の意義は以下の通り。
現物資産 | 金銭以外の資産 |
最終組合損益計算期間等終了時 | 当該事業年度にその終了の日が属する組合損益計算期間のうち最も新しいものの終了の時 |
組合損益計算期間 | 組合等損失額又は組合等利益額の計算の基礎となる当該組合事業に係る損益が計算される期間 |
組合財産持分割合 | 組合財産に対する各組合員の持分の割合 |
信託財産持分割合 | 現物資産の価額に対する各受益者が法人税法第十二条第一項の規定により有するものとみなされる部分の価額の割合 |
信託損益帰属額 | その法人の収益及び費用とみなされる当該信託の信託財産に帰せられる収益及び費用に係る損益の額 |
分配等 | 組合事業に係る利益の分配若しくは出資の払戻し(組合員持分担保債務に相当する払戻しを除く。)又は信託財産からの給付 |
2.組合等損失超過額の損金算入
確定申告書等を提出する法人が、各事業年度において組合等損失超過合計額を有する場合には、当該組合等損失超過合計額のうち当該事業年度の当該法人の組合等利益額に達するまでの金額は、当該事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入する(措法67条の12第2項)。組合等利益額とは、当該法人の組合事業又は信託による組合等益金額が当該組合事業又は当該信託による組合等損金額を超える場合のその超える部分の金額をいう(措令39条の31第9項)。