分割等があった場合の分割法人等における賃上げ促進税制の調整

1.基本的な内容

分割等があった場合において、賃上げ促進税制の適用を受けようとするときは、一定期間調整が必要となる。分割等とは以下のものをいう。

  • 分割
  • 現物出資
  • 現物分配

調整が必要な項目は比較雇用者給与等支給額と比較教育訓練費の額である。

2.調整が必要な適用年度

賃上げ促進税制の適用を受けようとする事業年度を適用年度という。

適用年度中に分割等を行った場合、比較雇用者給与等支給額と比較教育訓練費の額、ともに調整計算を行う必要がある。

それに対し適用年度前に分割等を行っている場合は調整の要否の判断が分かれる場合がある。比較雇用者給与等支給額については給与等基準日から適用事業年度開始の日の前日までの期間内において分割等が行われた場合、調整を行う必要がある。給与等基準日とは原則として前事業年度開始の日をいう(措令27条12の5第19項2号)。例外は租税特別措置法施行令27条12の5第19項1号を参照。比較教育訓練費の額については基準日から適用年度開始の日の前日までの期間内において分割等が行われた場合、調整が必要となる(措令27条12の5第14項2号)。基準日とは原則として適用年度開始の日前1年以内に開始した各事業年度のうち最も古い事業年度開始の日をいう(措令27条12の5第17項2号)。例外は租税特別措置法施行令27条12の5第17項1号参照。

3.比較雇用者給与等支給額の調整

(1)適用年度において分割等があった場合の分割法人等に係る調整

①調整方法

分割法人等の各調整対象年度ごとに「当該分割法人等の当該各調整対象年度に係る給与等支給額」から「当該分割法人等の当該各調整対象年度に係る移転給与等支給額に当該分割等の日から当該適用年度終了の日までの期間の月数を乗じてこれを当該適用年度の月数で除して計算した金額」を控除する(措令27条12の5第20項、14項1号イ)。調整対象年度は分割法人等の給与等基準日から当該適用年度開始の日の前日までの期間内の日を含む各事業年度である(措令27条12の5第20項、14項1号イ)。

②具体例

<前提>
当期の事業年度(適用年度):2024年4月1日から2025年3月31日
前期の事業年度:2023年4月1日から2024年3月31日
分割の日:2024年4月1日
前期の給与等支給額:12,000万円
前期末の国内雇用者の数(=分割直前の国内雇用者の数):100人
分割に伴い分割承継法人に移転した国内雇用者の数:20人

<調整の過程>
調整対象年度は前期である。「分割等の直後の当該分割等に係る分割承継法人等の国内雇用者(当該分割等の直前において当該分割法人等の国内雇用者であった者に限る。)の数」は20人、分割等の直前の当該分割法人等の国内雇用者の数は100人。移転給与等支給額は2,400万円(12,000万円×20/100)となる。「当該分割等の日から当該適用年度終了の日までの期間の月数」は12ヶ月、「当該適用年度の月数」も12ヶ月。従って比較雇用者給与支給額の計算上2,400万円(2,400万円×12/12)控除する。

(2)給与等基準日から適用事業年度開始の日の前日までの期間内において分割等が行われた場合の分割法人等に係る調整

①調整方法

分割法人等の各調整対象年度ごとに「当該分割法人等の当該各調整対象年度に係る給与等支給額」から「当該分割法人等の当該各調整対象年度に係る移転給与等支給額」を控除する(措令27条12の5第20項、14項1号ロ)。調整対象年度は分割法人等の給与等基準日から当該分割等の日の前日までの期間内の日を含む各事業年度である(措令27条12の5第20項、14項1号ロ)。

②具体例

<前提>
当期の事業年度(適用年度):2024年4月1日から2025年3月31日
前期の事業年度:2023年4月1日から2024年3月31日
分割の日:2023年10月1日
2023年9月30日までの給与等支給額:6,000万円
2023年9月30日の国内雇用者の数(=分割直前の国内雇用者の数):100人
分割に伴い分割承継法人に移転した国内雇用者の数:20人

<調整の過程>
調整対象年度は前期である。「分割等の直後の当該分割等に係る分割承継法人等の国内雇用者(当該分割等の直前において当該分割法人等の国内雇用者であった者に限る。)の数」は20人、分割等の直前の当該分割法人等の国内雇用者の数は100人。前期は分割等事業年度であるため、分割等の日の前日までの給与等支給額が移転給与等支給額の計算上基準となる。移転給与等支給額は1,200万円(6,000万円×20/100)となる。従って比較雇用者給与支給額の計算上この1,200万円が控除される。

(3)移転給与等支給額

移転給与等支給額とは、その分割等に係る分割法人等の当該分割等の日前に開始した各事業年度に係る給与等支給額(分割等事業年度にあっては、当該分割等の日の前日を当該分割等事業年度終了の日とした場合に損金の額に算入される給与等支給額)に当該分割等の直後の当該分割等に係る分割承継法人等の国内雇用者(当該分割等の直前において当該分割法人等の国内雇用者であった者に限る。)の数を乗じてこれを当該分割等の直前の当該分割法人等の国内雇用者の数で除して計算した金額をいう。分割等事業年度とは分割等の日を含む事業年度をいう(措令27条12の5第15項)。

4.比較教育訓練費の額の調整

(1)適用年度において分割等があった場合の分割法人等に係る調整

分割法人等の各調整対象年度ごとに「当該分割法人等の当該各調整対象年度に係る教育訓練費の額」から「当該分割法人等の当該各調整対象年度に係る移転教育訓練費の額に当該分割等の日から当該適用年度終了の日までの期間の月数を乗じてこれを当該適用年度の月数で除して計算した金額」を控除する(措令27条12の5第14項1号イ)。調整対象年度は分割法人等の基準日から当該適用年度開始の日の前日までの期間内の日を含む各事業年度である(措令27条12の5第14項1号イ)。

(2)基準日から適用事業年度開始の日の前日までの期間内において分割等が行われた場合の分割法人等に係る調整

分割法人等の各調整対象年度ごとに「当該分割法人等の当該各調整対象年度に係る教育訓練費の額」から「当該分割法人等の当該各調整対象年度に係る移転教育訓練費の額」を控除する(措令27条12の5第14項1号ロ)。調整対象年度は分割法人等の基準日から当該分割等の日の前日までの期間内の日を含む各事業年度である(措令27条12の5第14項1号ロ)。

(3)移転教育訓練費の額

移転教育訓練費の額とは、その分割等に係る分割法人等の当該分割等の日前に開始した各事業年度に係る教育訓練費の額(分割等事業年度にあっては、当該分割等の日の前日を当該分割等事業年度終了の日とした場合に損金の額に算入される教育訓練費の額)に当該分割等の直後の当該分割等に係る分割承継法人等の国内雇用者(当該分割等の直前において当該分割法人等の国内雇用者であった者に限る。)の数を乗じてこれを当該分割等の直前の当該分割法人等の国内雇用者の数で除して計算した金額をいう(措令27条12の5第16項)。分割等事業年度とは分割等の日を含む事業年度をいう(措令27条12の5第15項)。