1.賃上げ促進税制の種類
賃上げ促進税制は以下の3種類がある。
- 大企業向け賃上げ促進税制
- 中堅企業向け賃上げ促進税制
- 中小企業向け賃上げ促進税制
中小企業や中堅企業向けの賃上げ促進税制の方が一般的に税額控除額が大きくなる。大企業向け賃上げ促進税制は中小企業や中堅企業に該当しない企業であっても適用を受けることができる賃上げ促進税制である。ただ中小企業や中堅企業であっても大企業向け賃上げ促進税制の適用を受けることができる。そのため経済産業省の手引き等では「全企業向け」とされている。
中堅企業とは厳密にいえば特定法人である。特定法人とは常時使用する従業員の数が2,000人以下の法人をいう(措法42条の12の5第5項10号)。ただし当該法人及び当該法人との間に当該法人による支配関係がある他の法人の常時使用する従業員の数の合計数が10,000人を超えるものは除外される(措法42条の12の5第5項10号かっこ書き)。
中小企業も厳密には中小企業者又は農業協同組合等で、青色申告書を提出するものをいう。このうち中小企業者とは以下のものをいう(措法42条の12の5第3項、42条の4第4項、措令27条の4第17項)。
- 資本金の額又は出資金の額が1億円以下の法人のうち一定のもの
- 資本又は出資を有しない法人のうち常時使用する従業員の数が1,000人以下の法人
2.基本的な適用要件
(1)賃上げ促進税制の賃上げに関する適用要件
賃上げ促進税制の適用を受ける場合、いくつか要件を満たす必要があるが、一番重要な要件は賃上げに関する要件である。
大企業向け賃上げ促進税制の適用を受ける場合、継続雇用者給与等支給増加割合が3%以上でなければならない(措法42条の12の5第1項)。
中堅企業向け賃上げ促進税制の適用を受ける場合も同様である(措法42条の12の5第2項)。
中小企業向け賃上げ促進税制の適用を受ける場合、雇用者給与等支給増加割合が1.5%以上でなければならない(措法42条の12の5第3項)。
(2)ステークホルダー宣言
大企業向け賃上げ促進税制では、以下の法人はステークホルダー宣言をしなければ、賃上げ促進税制の適用を受けることができない(措法42条の12の5第1項かっこ書き)。
- 当該事業年度終了の時において、資本金の額又は出資金の額が10億円以上であり、かつ、常時使用する従業員の数が1,000人以上の法人
- 当該事業年度終了の時において常時使用する従業員の数が2,000人を超える法人
中堅企業向け賃上げ促進税制でも、以下の法人はステークホルダー宣言をしなければ、賃上げ促進税制の適用を受けることができない。
- 当該事業年度終了の時において、資本金の額又は出資金の額が10億円以上であり、かつ、常時使用する従業員の数が1,000人以上である法人
中小企業向け賃上げ促進税制の適用を受ける場合、ステークホルダー宣言は扶養である。
3.税額控除額
(1)基本的な控除額
大企業向け賃上げ促進税制の場合、基本的に控除対象雇用者給与等支給増加額の10%相当額控除することができる(措法42条の12の5第1項)。この控除額を税額控除限度額という。
中堅企業向け賃上げ促進税制の場合も、基本的な控除額は控除対象雇用者給与等支給増加額の10%相当額である(措法42条の12の5第2項)。この控除額を特定税額控除限度額という。
中小企業向け賃上げ促進税制の場合は、控除対象雇用者給与等支給増加額の15%相当額が基本的な控除額である(措法42条の12の5第3項)。この控除額を中小企業者等税額控除限度額という。
(2)賃上げ割合による控除額の上乗せ
大企業向け賃上げ促進税制の場合、賃上げ割合により控除割合が加算される(措法42条の12の5第1項1号)。
継続雇用者給与等支給額増加割合が4%以上 5%
継続雇用者給与等支給額増加割合が5%以上 10%
継続雇用者給与等支給額増加割合が7%以上 15%
中堅企業向け賃上げ促進税制の場合、継続雇用者給与等支給額増加割合が4%以上であるときは、控除割合が15%加算される(措法42条の12の5第2項1号)。
中小企業向け賃上げ促進税制の場合、雇用者給与等支給増加割合が2.5%以上増加した場合、控除割合が15%加算される(措法42条の12の5第3項1号)。
(3)教育訓練費の増加による控除額の上乗せ
大企業向け賃上げ促進税制及び中堅企業向け賃上げ促進税制の場合、以下の要件を満たすときは控除割合が5%上乗せされる(措法42条の12の5第1項2号、2項2号)。
- 教育訓練費が10%以上増加したこと
- 教育訓練費の額の雇用者給与等支給額に対する割合が0.05%以上であること
中小企業向け賃上げ促進税制の場合、以下の要件を満たすことで、控除割合が10%上乗せされる(措法42条の12の5第3項2号)。
- 教育訓練費が5%以上増加したこと
- 教育訓練費の額の雇用者給与等支給額に対する割合が0.05%以上であること
(4)くるみん等の認定による控除額の上乗せ
大企業向け賃上げ促進税制の場合、適用事業年度終了時においてプラチナくるみん認定又はプラチナえるぼし認定を取得しているときは、控除割合が5%上乗せされる(措法42条の12の5第1項3号)。
中堅企業向け賃上げ促進税制の場合、以下のいずれかの要件を満たしているときは、控除割合が5%上乗せされる(措法42条の12の5第2項3号)。
- 適用事業年度終了時においてプラチナくるみん認定又はプラチナえるぼし認定を取得していること
- 適用事業年度においてえるぼし認定(3段階目)を取得したこと
適用事業年度においてえるぼし認定(3段階目)を取得してなければならなず、仮に適用事業年度で取得した場合、翌事業年度では他の認定をうけなければ上乗せ措置はない。プラチナくるみん認定又はプラチナえるぼし認定はいったん取得すれば、認定が取り消されない限り上乗せ措置が適用できる。
中小企業向け賃上げ促進税制の場合、以下のいずれかの要件を満たした場合、控除割合が5%上乗せされる(措法42条の12の5第3項3号)。
- 適用事業年度終了時においてプラチナくるみん認定又はプラチナえるぼし認定を取得していること
- 適用事業年度終了時にプラチナくるみんプラス認定を取得していること
- 適用事業年度中にえるぼし認定(2段階目以上)を取得したこと
- 適用事業年度中にくるみん認定又はくるみんプラス認定を取得したこと
(5)上限
いずれの制度も法人税額の20%相当額が税額控除額の上限となる(措法42条の12の5第1項但書、2項但書、3項但書)。
4.繰越控除
税額控除の上限は20%であるが、上限を超えて控除しきれなかった金額は中小企業向け賃上げ促進税制の適用を受ける場合のみ、5年間繰越することができる(措法42条の12の5第4項)。中小企業が大企業向け賃上げ促進税制や中堅企業向け賃上げ促進税制の適用を受けても、繰越控除はすることができない。
繰越控除を受けるには、適用事業年度において雇用者給与等支給額がその比較雇用者給与等支給額を超えていなければならない(措法42条の12の5第4項)。
またその適用事業年度の税額控除額と合わせて法人税額の20%相当額が上限となる(措法42条の12の5第4項)。