1.概要
会社の清算が結了するにはその会社の残余財産を確定し、その残余財産を分配しなければならない。完全支配関係がある子会社の最後の残余財産の分配がなされた場合、会計上は親会社で残余財産の分配を受けた金額と子会社株式の簿価との差額が利益又は損失となる。それに対して税務では配当となる金額がある。また完全支配関係がある子会社の株式については消滅損を認識しないため、会計上の利益又は損失と税務上の利益又は損失は必ずしも一致しない。さらに完全支配関係がある子会社の残余財産が確定した場合、親会社は欠損金を引き継ぐことができる。
2.残余財産の分配の分配に係る税務
(1)みなし配当及び受取配当等の益金不算入
①みなし配当
法人の株主等である内国法人がその法人の解散による残余財産の分配により金銭その他の資産の交付を受けた場合において、「残余財産の分配により交付を受けた金銭等の額の合計額」が「その法人の資本金等の額のうちその交付の基因となったその法人の株式又は出資に対応する部分の金額」を超えるときは、みなし配当が生じる(法法24条1項4号)。「その法人の資本金等の額のうちその交付の基因となったその法人の株式又は出資に対応する部分の金額」を払戻等対応資本金額等という(法令23条1項4号)。みなし配当の金額は「残余財産の分配により交付を受けた金銭等の額の合計額」から払戻等対応資本金額を控除した金額である。「残余財産の分配により交付を受けた金銭等の額の合計額」が払戻等対応資本金額に満たない場合、みなし配当は生じない(法法24条1項4号)。払戻等対応資本金額は次の算式により計算した金額である(法令23条1項4号)。
直前の資本金等の額×その解散による残余財産の分配により交付した金銭の額及び金銭以外の資産の価額÷前事業年度終了の時の資産の帳簿価額から負債の帳簿価額を減算した金額
残余財産の全部の分配を行う場合、払戻等対応資本金額は直前の資本金等の額となる(法令23条1項4号)。
②みなし配当に係る源泉税
みなし配当についても源泉徴収が必要である。しかし100%子会社が親会社に配当する場合、源泉徴収は不要とされるため、完全支配関係がある子会社からみなし配当に該当する事由により金銭等の交付をする場合、源泉徴収は不要である。
③受取配当等の益金不算入
みなし配当についても受取配当等の益金不算入の規定が適用される。その子会社の残余財産確定時に完全支配関係がある場合であれば、通常親会社においてその子会社の株式は完全子法人株式等に該当する。子会社の株式が完全子法人株式等に該当する場合、みなし配当の金額は全額益金不算入となる(法法23条1項)。
(2)子会社消滅損益の損金不算入等
ある会社の残余財産の分配が完了し、清算が結了するとその会社の株式は消滅する。配当とみなされた金額を除いた残余財産の分配の金額がその親会社等におけるその会社の株式の簿価よりも大きければ税務上は利益が、少なければ損失が生じる。ただし清算が結了した会社がその親会社との間に完全支配関係がある場合、親会社においてその清算が結了した会社の株式をその簿価で譲渡したものとしてその会社の株式の譲渡損益を計算する(法法61条の2第17項)。
株式の譲渡損益を簿価で計算をするため、親会社の資本金等の額も変動する。資本金等の額から次の金額が控除される(法令8条1項22号)。
みなし配当の金額+その子会社株式の簿価-残余財産の分配により交付を受けた金銭等の額の合計額
(3)具体例とその仕訳
以下具体例を例示するが、すべての具体例において残余財産が確定し、残余財産の全部を分配することを前提とする。残余財産はすべて現金とする。すべての債務を弁済しなければ、残余財産の全部の分配ができないため、債務はないものとする。
また残余財産の全部の分配をするため、払戻等対応資本金額は資本金等の額と一致する。
① 具体例①
<前提>
残余財産 | 900,000 |
資本金等 | 600,000 |
利益剰余金 | 300,000 |
子会社株式の簿価 | 600,000 |
<みなし配当の金額>
残余財産900,000であり、払戻等対応資本金額は600,000であるため、みなし配当の金額は300,000である(900,000 – 600,000)。
<資本金等の額の増減>
みなし配当の金額は300,000、子会社株式の簿価は600,000であり、合計900,000である。交付を受けた金銭は900,000である。同額であるため、資本金等の額は増減しない。
<仕訳>
借方 | 貸方 | ||
現金 | 900,000 | 受取配当等 | 300,000 |
譲渡等対価 | 600,000 | ||
譲渡等原価 | 600,000 | 子会社株式 | 600,000 |
残余財産の分配のうち300,000はみなし配当となるため、子会社株式の消滅の対価は600,000である。子会社株式の簿価は600,000であるため、その原価は600,000である。
譲渡等対価と譲渡等原価を相殺すると以下の仕訳になる。
借方 | 貸方 | ||
現金 | 900,000 | 受取配当等 | 300,000 |
子会社株式 | 600,000 |
② 具体例②
<前提>
残余財産 | 900,000 |
資本金等 | 600,000 |
利益剰余金 | 300,000 |
子会社株式の簿価 | 700,000 |
<みなし配当の金額>
残余財産900,000であり、払戻等対応資本金額は600,000であるため、みなし配当の金額は300,000である(900,000 – 600,000)。
<資本金等の額の増減>
みなし配当の金額は300,000、子会社株式の簿価は700,000であり、合計1,000,000である。交付を受けた金銭は900,000である。そのため資本金等の額は100,000減少する(1,000,000 – 900,000)。
<仕訳>
税務上の調整がわかりやすいように途中まで具体例①と同様としている。
借方 | 貸方 | ||
現金 | 900,000 | 受取配当等 | 300,000 |
譲渡等対価 | 600,000 | ||
譲渡等原価 | 700,000 | 子会社株式 | 700,000 |
資本金等の額 | 100,000 | 譲渡等対価 | 100,000 |
この具体例②では子会社株式の簿価が700,000であるため、譲渡等対価の総額は700,000である。金銭等の分配により計上される譲渡等対価は600,000であるため、譲渡等対価は100,000増加する。この譲渡等対価の増加に対応し上記で計算したように資本金等の額が100,000減少する。
譲渡等対価と譲渡等原価を相殺すると以下の仕訳になる。
借方 | 貸方 | ||
現金 | 900,000 | 子会社株式 | 700,000 |
資本金等 | 100,000 | 受取配当等 | 300,000 |
③ 具体例③
<前提>
残余財産 | 900,000 |
資本金等 | 600,000 |
利益剰余金 | 300,000 |
子会社株式の簿価 | 500,000 |
<みなし配当の金額>
残余財産900,000であり、払戻等対応資本金額は600,000であるため、みなし配当の金額は300,000である(900,000 – 600,000)。
<資本金等の額の増減>
みなし配当の金額は300,000、子会社株式の簿価は500,000であり、合計800,000である。交付を受けた金銭は900,000である。そのため資本金等の額は100,000増加する(800,000 – 900,000)。
<仕訳>
借方 | 貸方 | ||
現金 | 900,000 | 受取配当等 | 300,000 |
譲渡等対価 | 600,000 | ||
譲渡等原価 | 500,000 | 子会社株式 | 500,000 |
譲渡等対価 | 100,000 | 資本金等の額 | 100,000 |
子会社株式の簿価が500,000であるため、譲渡等対価の総額は500,000である。金銭等の分配により計上される譲渡等対価は600,000であるため、譲渡等対価は100,000減少する。この譲渡等対価の減少に対応し上記で計算したように資本金等の額が100,000増加する。
譲渡等対価と譲渡等原価を相殺すると以下の仕訳になる。
借方 | 貸方 | ||
現金 | 900,000 | 子会社株式 | 500,000 |
受取配当等 | 300,000 | ||
資本金等の額 | 100,000 |
3.欠損金の引継ぎ
(1)内容
内国法人との間に完全支配関係がある他の内国法人で当該内国法人が発行済株式又は出資の全部又は一部を有するものの残余財産が確定した場合において、当該他の内国法人の当該残余財産の確定の日の翌日前10年以内に開始した各事業年度(以下「前10年内事業年度」という。)において生じた欠損金額があるときは、当該内国法人の当該残余財産の確定の日の翌日の属する事業年度以後の各事業年度において、当該前10年内事業年度において生じた未処理欠損金額は原則としてそれぞれ当該未処理欠損金額の生じた前10年内事業年度開始の日の属する当該内国法人の各事業年度において生じた欠損金額とみなされる(法法57条2項)。
(2)引継ぎの制限
当該残余財産の確定の日の翌日の属する事業年度開始の日の5年前の日又は当該内国法人の設立の日のうち最も遅い日から継続して支配関係がある場合として政令で定める場合のいずれにも該当しない場合には、次に掲げる欠損金額が残余財産が確定した他の内国法人の引継ぎの対象となる未処理欠損金額から除外される(法法57条3項)。
- 当該残余財産が確定した他の内国法人の支配関係事業年度前の各事業年度で前10年内事業年度に該当する事業年度において生じた欠損金額
- 当該残余財産が確定した他の内国法人の支配関係事業年度以後の各事業年度で前10年内事業年度に該当する事業年度において生じた欠損金額のうち特定資産譲渡等損失額に相当する金額から成る部分の金額として政令で定める金額