利益積立金額の意義と計算・別表五(一)

1.利益積立金額の意義と簡単な計算例・別表五(一)

利益積立金額とは、法人の所得の金額で留保している金額として政令で定める金額をいう(法法2条18号)。具体的な計算は法人税法施行令9条に規定されている。

利益積立金額はよく税務上の利益剰余金といわれる。一番重要な項目は課税所得であると考える。法人税法施行令9条においても一番初めに記載されている。

利益積立金額の一番シンプルな計算例は課税所得と未払法人税等で構成されるケースである。単純化のために設立初年度の法人で、東京都23区のみに本社のみ有しているものとする。また地方法人税、住民税の均等割、特別法人事業税はないものとし、法人税率は23.2%、住民税率は7%、事業税率は7%とする。税引前純利益は1,000,000円、未払法人税等以外の税会不一致がないものとする。法人税額は232,000円、住民税が16,200円、事業税が70,000円、合計318,200円である。これが未払法人税等として計上されるため、税引後当期純利益は681,800円となる。設立初年度であるため、この税引後当期純利益の金額がそのまま繰越利益剰余金となる。未払法人税等は税務上は当期の損金とならないため、課税所得は1,000,000円である。

利益積立金額は課税所得1,000,000円から初年度の課税所得に対する法人税232,000円と住民税16,200円を控除した751,800円である(法令9条1号イ、カ)。別表五(一)の記載は以下のようになる。

区分期首現在利益積立金額当期の増減差引翌期首現在利益積立金額
繰越損益金681,800681,800
納税充当金318,200318,200
未納法人税△232,000△232,000
未納道府県民税△16,200△16,200
未納市町村民税
差引合計額751,800751,800

繰越損益金は法令にはない用語であるが、別表五(一)の記載要領では繰越利益剰余金と同額とされている。また実務上会計の未払法人税等の金額を納税充当金の欄に記入することとされている。

2.税会不一致のうち留保項目がある場合

減価償却超過額のように税会不一致のうち留保項目がある場合、利益積立金額の計算上調整は不要である(法人税法施行令9条1号イ、カのみで計算できる)。先ほどの例で減価償却超過額が500,000円あったものとする。そうすると未払法人税等計上前の課税所得は1,500,000円である(1,000,000 + 500,000)。法人税は348,000円、住民税は24,300円、事業税は105,000円、合計477,300円であり、税引後当期純利益は522,700円である。利益積立金額は1,127,700円である(1,500,000 – 348,000 – 24,300)。別表五(一)は一般的には以下のようになる。

区分期首現在利益積立金額当期の増減差引翌期首現在利益積立金額
減価償却超過額500,800500,800
繰越損益金522,700522,700
納税充当金477,300477,300
未納法人税△348,000△348,000
未納道府県民税△24,300△24,300
未納市町村民税
差引合計額1,127,7001,127,700

3.社外流出がある場合

(1)加算となる社外流出がある場合

社外流出がある場合、利益積立金額の計算項目が増える。課税所得等のうちに留保していない金額がある場合には当該留保していない金額を減算する(法令9条1号かっこ書き)。最初の例において交際費等の損金不算入が500,000円あったとする。課税所得は1,500,000円である。税金の計算は2番目の例と同じで法人税は348,000円、住民税は24,300円、事業税は105,000円、合計477,300円であり、税引後当期純利益は522,700円である。交際費等の損金不算入の金額は課税所得を構成するが、留保していない金額であるため、利益積立金額の計算上は減算する。従って利益積立金額の金額は627,700円である(1,500,000 – 348,000 – 24,300 – 500,000)。別表五(一)は以下のようになる。

区分期首現在利益積立金額当期の増減差引翌期首現在利益積立金額
繰越損益金522,700522,700
納税充当金477,300477,300
未納法人税△348,000△348,000
未納道府県民税△24,300△24,300
未納市町村民税
差引合計額627,700627,700

(2)減算となる社外流出がある場合

受取配当等の益金不算入のように、課税所得の計算上減算される社外流出項目もある。減算される社外流出項目は利益積立金額の計算上個別に加算規定がある。最初の例で受取配当等の益金不算入が500,000円あったとする。そうすると課税所得は500,000円である。法人税は116,000円、住民税は8,100円、事業税は35,000円、合計159,100円であり、税引後当期純利益は840,900円である。利益積立金額の計算上受取配当等の益金不算入額は加算する(法令9条1号ロ)。従って利益積立金額は875,900円である(500,000 – 116,000 – 8,100 + 500,000)。

区分期首現在利益積立金額当期の増減差引翌期首現在利益積立金額
繰越損益金840,900840,900
納税充当金159,100159,100
未納法人税△116,000△116,000
未納道府県民税△8,100△8,100
未納市町村民税
差引合計額875,900875,900

受取配当等の益金不算入のように減算となる社外流出項目については個別で加算規定が設けられていると思われる。