1.意義
投資簿価修正とは、通算制度から離脱する通算子法人の株式の帳簿価額をその通算子法人の簿価純資産価額に修正することをいう。通算制度から離脱する通算子法人を一般的に離脱法人という。
投資簿価修正は通算子法人の利益に対する二重課税の防止等の観点から定められている。例えば通算子法人となる法人を1,000で設立し、その法人が500利益を上げ、法人税等が200課税されたとする。税引後の300が利益剰余金となり、純資産の金額は元々の1,000と利益剰余金300を合わせた1,300となる。会計・税務における法人の株価の算定では純資産が大きな要素となっている。この場合でいうと1,300が一つの目安となる。企業買収等では将来のキャッシュフローや将来性も考慮される。他の会社からみたこの通算子法人の株式の評価が1,500となり、1,500で売却したとする。譲渡益は売却の対価1,500から当初の出資金額1,000を控除した500である。純資産が株価に影響を与えるという考えるのであれば、このうち300は利益の獲得による純資産増加分によるものと考えられる。グループ通算制度ではグループ全体に課税されるという建付けになっており、通算子法人の利益剰余金についてはグループ全体では課税済みである。そのため利益の獲得による純資産増加による譲渡益に対して課税してしまうと二重課税となってしまう。逆に通算子法人において損失を生じているときは、グループ通算制度のもと損益の通算がなされ、かつ、損失が通算子法人の株式の評価に反映され、通常譲渡損が計上される。この場合は損失の二重計上となる。こうした観点から投資簿価修正が定められている。
対象株式
2.投資簿価修正の基礎
(1)取扱い
通算子法人について通算終了事由が生じた場合には、他の通算法人である内国法人が有するその離脱法人の株式の帳簿価額に簿価純資産不足額を加算し、又は帳簿価額から簿価純資産超過額を減算する(法令119条の3第5項、119条の4第1項)。簿価純資産不足額とは、離脱法人の株式の帳簿価額が簿価純資産価額に満たない場合におけるその満たない部分の金額をいう。それに対して簿価純資産超過額とは、離脱法人の株式の帳簿価額が簿価純資産価額を超える場合におけるその超える部分の金額をいう。
(2)簿価純資産価額の意義
簿価純資産価額とは、投資簿価修正においては離脱法人の資産の帳簿価額の合計額から負債の帳簿価額の合計額を控除した金額に投資簿価修正を行う内国法人のその離脱法人に対する持株割合を乗じた金額である(法令119条の3第5項、119条の4第1項)。「簿価純資産価額」というと単に資産の帳簿価額の合計額から負債の帳簿価額の合計額を控除した金額と思えるが、投資簿価修正の文脈(条文)では離脱法人に対する持株割合を乗じた金額である。
例えばA社・B社・C社でグループ通算制度の適用を受けているものとする。当初A社とB社がC社の株式を有しており、C社に対するA社の持株割合が60%、B社の持株割合が40%であったとする。A社とB社がC社の株式を全部X社に売却したものとする。これによりC社については通算の承認は効力を失う。従ってC社株式について投資簿価修正を行わなければならない。C社の資産の帳簿価額の合計額が1,000、負債の帳簿価額の合計が400であるとする。A社の投資簿価修正上のC社の簿価純資産価額は360であり、B社の投資簿価修正上のC社の簿価純資産価額は240である。
(3)簿価純資産価額の基準日
通算承認の効力を失った日の前日の属する事業年度終了の時の資産・負債の帳簿価額により簿価純資産価額を計算する(法令119条の3第5項、119条の4第1項)。
3.資産調整勘定対応金額の加算措置
(1)意義
いわゆるのれんを投資簿価修正に反映することができる。純資産が1,300の会社が1,500で売却できた場合、売却代金と純資産の差額200は会計・税務では将来性が反映されたもの、いわゆるのれんと考える。こののれんの金額も投資簿価修正で離脱法人の株式の帳簿価額に加算することができる。ある通算法人が純資産1,300の会社を1,500で取得したとする。のれんは200である。その後買った会社が税引後で300の利益を上げ、2,100で売却できたとする。投資簿価修正を考慮しなければ譲渡益は600である。基本的な投資簿価修正の金額は300である。のれん相当も考慮でき、のれん相当も考慮した投資簿価修正は500である(300 + 200)。従って譲渡益は100となる。
(2)資産調整勘定対応金額・負債調整勘定対応金額
投資簿価修正の文脈では正ののれんに相当する概念を資産調整勘定対応金額といい、負ののれんに相当する概念を負債調整勘定対応金額という。資産調整勘定対応金額又は負債調整勘定対応金額は、対象株式の取得の時において、離脱法人を被合併法人とし、その取得をした法人を合併法人とする非適格合併が行われたものとして計算する。非適格合併等対価額が離脱法人の時価純資産価額を超える場合のその超える部分の金額が正ののれんであり、満たない場合の満たない部分の金額が負ののれんである。非適格合併等対価額は以下の算式により計算する。
その取得に係る対象株式の取得価額÷その取得時に取得した株式の数×離脱法人のその取得の時における発行済株式の総数
離脱法人の株式のすべてをその取得時の単価で取得したものとして非適格合併等対価額を計算する。離脱法人の時価純資産価額は資産負債をその取得時で時価評価して算定する。非適格合併等対価額と時価純資産価額の差額が離脱法人の株式を全部取得した場合ののれん相当となるが、必ずしも一度に全部取得するわけではない。そのため最後にのれん相当に離脱法人の取得の時における発行済株式総数のうちにその取得に係る対象株式の数の占める割合を乗じる。乗じた後の金額が資産調整勘定対応金額又は負債調整勘定対応金額となる。
(3)非適格合併等対価額に関する留意点
原則として附随費用を含む(法基通2-3-21の8前段)。ただし対象株式の取得の時期が古いなどの理由により、購入手数料その他当該対象株式の購入のために要した費用の把握が困難であると認められるときには、その購入の代価を当該対象株式の取得価額とすることができる(法基通2-3-21の8後段)。
(4)時価純資産価額に関する留意点
①退職給与債務引受額・短期重要債務見込額
時価純資産価額の計算の基礎となる負債の額には、退職給与債務引受額及び短期重要債務見込額の金額を含まない(法基通2-3-21の6)。
②評価時点
原則として対象株式を取得した時点で評価を行う。ただし課税上弊害がない限り、その取得した時の直前の月次決算期間又は会計期間の終了の日に当該他の通算法人が有する資産及び負債の同日における価額を基礎として計算することが認められている(法基通2-3-21の7)。
(5)適用要件・申告要件
適用要件は特段ないが、申告要件等がある。対象となる離脱法人の株式を保有していたすべての通算法人が通算終了事由が生じた時の属する事業年度の確定申告書、修正申告書又は更正請求書に資産調整勘定対応金額等の計算に関する明細を記載した書類を添付し、かつ、いずれかの通算法人が資産調整勘定対応金額及び負債調整勘定対応金額の計算の基礎となる事項を記載した書類その他の財務省令で定める書類を保存している場合に適用される(法令119条の3第6項、119条の4第1項)。
4.離脱時の時価評価との関係
投資簿価修正では通算承認の効力を失った日の前日の属する事業年度終了の時の資産・負債の帳簿価額により計算を行う。一方離脱時に資産負債の時価評価を行う場合がある。時価評価を行う場合、投資簿価修正と同様に通算承認の効力を失った日の前日の属する事業年度で行われる。従って離脱時の時価評価と投資簿価修正をどちらを先に行うのかという論点がある。これについては投資簿価修正の二重課税の防止等の趣旨から先に離脱時の時価評価を行い、次に投資簿価修正を行うことになっている(法基通2-3-21の2)。