(1)事業所税の概要
事業所税は指定都市等で課税される市町村民税である(地法701条の30)。指定都市等とは以下のものをいう(地法701条の31第1項1号)。
① 地方自治法第252条の19第1項の市
② ①に掲げる市以外の市で首都圏整備法第2条第3項に規定する既成市街地又は近畿圏整備法第2条第3項に規定する既成都市区域を有するもの
③ ①及び②に掲げる市以外の市で人口(官報で公示された最近の国勢調査の結果による人口その他これに準ずるものとして政令で定める人口をいう。)30万以上のもののうち政令で指定するもの
事業所税はこれらの指定都市等以外では課税されず、すべての市町村で課税されるわけではない。また東京都23区内では例外的に都税として課税される(地法735条1項)。
事業所税には資産割と従業者割がある。資産割は事業所床面積を課税標準として課税され、従業者割は従業者給与総額を課税標準として課税される(地法701条の31第1項2号、3号)。不動産証券化を行う場合、ビークルとなる法人には通常従業員がいない。従業者割の課税標準となる従業者給与総額には役員報酬も含まれるものの、通常役員は無給である。そのため不動産証券化を行う場合、従業者割は通常課税されない。一方資産割はSPCであっても課税される場合がある。
(2)資産割
資産割の課税標準は事業所床面積であるため、オフィスや店舗、物流施設、工場等に課税されるが、住居に対しては課税されない。
不動産が貸付けられている場合には貸付けられている部分についてはその借主が納税義務者となる(取通(市)第9条3(44)ア)。貸主は貸し付けを行っていない部分についてのみ納税義務者となる。例えば貸しビルの場合、貸主はビルの管理人室や管理用倉庫等について納税義務を負う。
資産割は以下の算式により計算する。
課税標準となる事業所床面積(㎡)×600円
事業所床面積はその課税団体である市町村に所在する事業所床面積の合計である。同一の指定都市等に複数の事業所を有している場合、すべての事業所の床面積の合計が課税標準となる。事業年度の途中で新設又は廃止された事業所については月割計算を行う。また事業所税にも非課税制度や減免制度があり、それらの適用がある場合、適用後の事業所床面積が課税標準となる。
事業所税には免税点があり、資産割に関しては同一の指定都市等に所在する事業所の床面積が合計1,000㎡以下である場合には課税されない(地法701条の43第1項)。事業所税の課税団体は各指定都市等であるため、この判定は指定都市等ごとに行う。そのため指定都市等に該当するA市、B市に事業所を有し、その床面積がそれぞれ600㎡の場合、指定都市等ごとにみれば免税点以下であるためA市でもB市でも事業所税は課税されない。なお課税標準である床面積と異なり、免税点の判定は各事業年度末の床面積で行うため、免税点の判定上新設された事業所の床面積につき月割計算を行わない。
納付すべき事業所税がある法人は、各事業年度終了の日から2月以内に指定都市等に対し事業所税の申告及び納税をしなければならない(地法701条の46第1項、3項)。免税点以下であれば、原則として事業所税の申告義務は負わない。ただし指定都市等の長は条例に定めることによって申告書を提出させることができる(地法701条の46第3項)。東京都23区の場合、事業所床面積が800㎡を超える場合、事業所税の申告義務が発生する。
不動産証券化を行う場合、SPCは通常不動産の貸付を行う。貸付部分は納税義務を負わない。また免税点があるため、ほとんどの場合、事業所税の納付は発生しない。しかし大規模なオフィス物件などで管理人室等貸付が行われていない部分の面積が大きく、免税点を超えると事業所税の納税が発生する。 事業所税は申告納税方式であるため、申告した事業年度の損金となる。例えばある年度(X1年度)の事業所税の申告・納税はその翌年度(X2年度)に行うが、その事業所税は翌年度(X2年度)の損金となる。仮にある事業年度(X1年度)に係る事業所税を未払計上してその事業年度の費用とすると、損金に算入できず税会不一致の原因となる。