不動産に対するインバウンド投資

1.外国法人の基本的な課税関係
外国法人に対しては、その外国法人が日本国内にPEを有する場合、恒久的施設帰属所得とその他の国内源泉所得に対して法人税が課税される(法法141条1項イ、ロ)。PEを有しない場合、恒久的施設帰属所得以外の国内源泉所得に対して課税がなされる(法法141条2項)。

法人税と所得税で国内源泉所得の範囲が異なるため、法人税が課税されない所得であっても所得税が課税される所得がある。例えば後述するように内国法人から受ける剰余金の配当等による所得は法人税では国内源泉所得に該当しない。しかし所得税では国内源泉所得に該当するため、所得税が課税される。

国内源泉所得については基本的に支払時に源泉徴収される。法人税が課税される場合、源泉徴収された金額は法人税額から控除することができる(法法68条)。これを所得税額控除という。なお法人税額から控除される所得税額は損金とならない(法法40条)。源泉徴収された場合に法人税申告をするときは適用されるため、以下では所得税額控除の適用がある場合でも特段記載しない。

租税条約により課税関係が修正される場合がある。以下の記載は租税条約を考慮していない。

2.外国法人が日本の不動産に直接投資する場合の課税関係
(1)不動産取得時
特段の課税関係は生じない。

(2)不動産賃貸時
日本国内にある不動産の貸付による所得は国内源泉所得に該当する(法法138条1項5号)。そのためPEを有するか否かに関わらず、外国法人は法人税の申告・納税義務を負う。

また原則として貸付の対価の20.42%が源泉徴収される(212条1項、213条1項1号)。源泉徴収された所得税は法人税の申告において法人税額から控除することとなる(所得税額控除)。例外的に外国法人がPEを有する場合には、一定の要件を満たし一定の手続をすることにより源泉徴収が免除される(所法180条、所令304条、305条)。

(3)不動産売却時
不動産の譲渡による所得は国内源泉所得に該当する(法法138条1項3号、法令178条1項1号)。そのためPEを有するか否かに関わらず、外国法人は法人税の申告・納税義務を負う。

また不動産の譲渡による所得は所得税法上も国内源泉所得に該当する(所法161条1項5号)。譲渡対価の10.21%が源泉徴収される(212条1項、213条1項2号)。源泉徴収された所得税は法人税の申告において法人税額から控除することとなる(所得税額控除)。

3.外国法人が不動産投資をする日本の法人に出資をする場合(匿名組合出資を除く)
(1)外国法人の課税関係
①配当に対する課税
内国法人から受ける剰余金の配当は法人税法上の国内源泉所得に該当しない。そのためPEを有していない場合、法人税は課税されない。

それに対して所得税法上は内国法人から受ける剰余金の配当等は国内源泉所得に該当する(所法161条1項9号イ)。外国法人はこの内国法人から受ける剰余金の配当等につき所得税の納税義務を負う(所法5条4項)。内国法人から受ける剰余金の配当等に対する所得税の課税標準は剰余金の配当等の金額であり、税率は20.42%である(所法178条、179条)。この税額は源泉徴収される(所法212条1項、213条1項1号)。源泉徴収のみで完結し、所得税の申告は要しない。

②出資の譲渡に対する課税
出資の譲渡による所得は原則として法人税法上国内源泉所得に該当しないが、例外的に以下の場合、国内源泉所得に該当する。
①事業譲渡類似株式の譲渡による所得
②不動産関連法人株式の譲渡による所得
③ゴルフ会員権のうち株主会員制となっているものの譲渡による所得(法法138条1項3号、法令178条1項6号)
③は不動産投資とは関係ないため、①と②のみ記載する。

内国法人の発行する株式の譲渡による所得で以下のものは法人税法上国内源泉所得に該当する(法法138条1項3号、法令178条1項4号)。
(イ)同一銘柄の内国法人の株式等の買集めをし、その所有者である地位を利用して、当該株式等をその内国法人若しくはその特殊関係者に対し、又はこれらの者若しくはその依頼する者のあっせんにより譲渡をすることによる所得
(ロ)内国法人の特殊関係株主等である外国法人が行うその内国法人の株式等の譲渡による所得で、以下の要件を満たすもの
・譲渡事業年度終了の日以前3年内のいずれかの時において、その特殊関係株主等がその内国法人の発行済株式等の総数又は総額の25%以上に相当する数又は金額の株式又は出資を所有していたこと(法令178条6項1号)
・譲渡事業年度において、その特殊関係株主等が最初にその内国法人の株式又は出資の譲渡をする直前のその内国法人の発行済株式等の総数又は総額の5%以上に相当する数又は金額の株式又は出資の譲渡をしたこと(法令178条6項2号)

不動産関連法人の株式等の譲渡による所得で以下の要件を満たすものは法人税法上国内源泉所得に該当する(法法138条1項3号、法令178条1項5号、9項)。
・譲渡事業年度開始の日の前日において、その株式又は出資に係る法人の特殊関係株主等が当該法人の発行済株式等の総数又は総額の2%(上場会社である場合は5%)を超える数又は金額の株式又は出資を有していること
・その株式又は出資の譲渡をした者が当該特殊関係株主等であること
不動産関連法人とは、その株式の譲渡の日から起算して365日前の日から当該譲渡の直前の時までの間のいずれかの時において、その有する資産の価額の総額のうちに国内にある土地・建物・建物附属設備・構築物等の価額の合計額の占める割合が50%以上である法人をいう(法令178条8項1号)。分子の資産には国内にある土地・建物・建物附属設備・構築物等の価額の合計額の占める割合がその法人の有する資産の総額に占める割合が50%以上である法人の株式の株式等も含まれる(法令178条8項2号)。例えば株式会社Aが不動産を保有しており、資産の90%が不動産となっている場合、株式会社Aは不動産関連法人に該当する。またこの株式会社Aの株式を株式会社Bが保有し、かつ、その資産に占める株式会社Aの株式の割合が90%である場合、株式会社Bも不動産関連法人に該当する。

これらについては所得税法上も国内源泉所得に該当する。ただし源泉徴収の対象となる所得には該当しないため、源泉徴収はされない(所法212条参照)。なお所得税法の条文は以下の通り。
①事業譲渡類似株式の譲渡による所得(所法161条1項3号、所令281条1項4号)
②不動産関連法人株式の譲渡による所得(所法161条1項3号、所令281条1項5号)
③ゴルフ会員権のうち株主会員制となっているものの譲渡による所得(所法161条1項3号、所令281条1項6号)

(2)日本法人の課税関係
①基本的な課税関係
出資の受入や配当の支払について特殊な課税関係は生じない。ただし出資とともに貸付を行う場合は過少資本税制や移転価格税制が適用される可能性がある。移転価格税制は債務保証の場合にも適用がある。また同一の外国法人により完全支配されている内国法人間で取引を行った場合、グループ法人税制が適用される可能性がある。

②過少資本税制
配当は損金に算入できないのに対し、支払利息は損金に算入することができる。そのため外国親会社等が日本法人に出資よりも貸付を多くすることによって日本における税負担を軽減することができる。その対策として外国親会社等の資本持分の原則として3倍を超える負債に対応する支払利子の額を損金に算入できない仕組みとなっている。これを過少資本税制という。外国親会社等から出資を受け入れ、かつ、外国親会社等からの借入も行う場合、この過少資本税制が適用される可能性がある。

③移転価格税制
外国の関連会社から借入を行った場合、支払利息が移転価格税制の対象となる。また債務保証も移転価格税制の対象であるため、外国親会社等から債務保証を受けて借入を行う場合、外国親会社等へ支払う保証料が移転価格税制の対象となる。

4.外国法人が匿名組合に出資する場合
(1)外国法人の課税関係
匿名組合契約による利益の分配は法人税法上の国内源泉所得に該当しないため、PEを有していない場合、法人税は課税されない。

それに対して所得税法上は匿名組合契約による利益の分配は国内源泉所得に該当する(所法161条1項16号)。外国法人はこの匿名組合契約による利益の分配につき所得税の納税義務を負う(所法5条4項)。匿名組合契約による利益の分配に対する所得税の課税標準は利益の分配の金額であり、税率は20.42%である(所法178条、179条)。この税額は源泉徴収される(所法212条1項、213条1項1号)。源泉徴収のみで完結し、所得税の申告は要しない。

(2)営業者の課税関係
特殊な課税関係は生じない。

5.外国法人が不動産投資を行う日本の法人に貸付をする場合
(1)外国法人の課税関係
貸付による利息は法人税の国内源泉所得に該当しない。従ってPEを有していない場合、法人税は課税されない。

それに対し所得税法上は国内源泉所得に該当し、所得税の納税義務を負う(所法161条1項10号、5条4項)。課税標準は支払を受けた金額で、税率は20.42%である(所法178条、179条1号)。利息の受取時に20.42%の税率で源泉徴収され、課税関係が完結する(所法212条1項、213条1項1号)。

(2)日本法人の課税関係
①基本的な課税関係
過大支払利子税制が適用される可能性がある。また前述したように外国親会社等から出資を受けている場合は過少資本税制と移転価格税制が適用される可能性がある。

②過大支払利子税制
支払利息は損金に算入できるため、支払利息を多くすることで、日本における税負担を軽減することができる。そのため対象となる支払利子等の額からこれらに対応する受取利息を控除した金額のうち所得に一定の調整を加えた金額の20%を超える部分の金額につき当期の損金の額に算入しないこととする制度が作られた。これを過大支払利子税制という。

過少資本税制と過大支払利子税制の両方の対象となる場合、損金不算入額が大きい方のみが適用される。