1.子会社株式簿価減額特例の基本的な内容
内国法人が他の法人から配当等の額を受け、かつ、当該配当等の額に係る決議日等において当該内国法人と当該他の法人との間に特定支配関係がある場合において、対象配当等の額及び同一事業年度内配当等の額の合計額が当該対象配当等の額及び同一事業年度内配当等の額に係る各基準時の直前において当該内国法人が有する当該他の法人の株式等の帳簿価額のうち最も大きいものの10%相当額を超えるときは、原則として、当該内国法人が有する当該他の法人の株式等の当該対象配当等の額に係る基準時における帳簿価額は、当該株式等の当該基準時の直前における帳簿価額から当該対象配当等の額のうち益金不算入規定により益金の額に算入されない金額に相当する金額を減算する(法令119条の3第10項、法令119条の4第1項)。
対象となる益金不算入規定は以下の通りである(法令119条の3第10項、法令119条の4第1項)。
- 受取配当等の益金不算入
- 外国子会社から受ける配当等の益金不算入
- 現物分配による資産の譲渡
特定支配関係とは当事者間の支配の関係又は一の者との間に当事者間の支配の関係がある法人相互の関係をいう(法令119条の3第12項2号)。当事者間の支配の関係とは、一の者が法人の発行済株式等の総数又は総額の50%を超える数又は金額の株式等を直接又は間接に保有する場合における当該一の者と法人との間の関係をいう(法令119条の3第12項2号)。この場合における発行済株式等とは発行済株式若しくは配当等議決権又は出資をいい、配当等議決権とは剰余金の配当、利益の配当若しくは剰余金の分配に関する決議、みなし配当事由に関する決議又は役員の選任に関する決議に係る議決権をいう(法令119条の3第12項2号)。発行済株式等からは当該法人が有する自己の株式若しくは配当等議決権又は出資は除外される。
対象配当等の額とは、内国法人が他の法人から配当等の額を受けた場合におけるその受ける配当等の額をいう。ただし完全支配関係内みなし配当等の額は除外される(法令119条の3第10項かっこ書き)。完全支配関係内みなし配当等の額とは、当該他の法人が内国法人である場合で、かつ、みなし配当事由により配当等を受ける内国法人と当該他の法人との間に完全支配関係がある場合において、みなし配当事由が生じたことに基因して配当等とみなされる金額をいう。
同一事業年度内配当等の額とは、当該対象配当等の額を受ける日の属する事業年度開始の日からその受ける直前の時までの間に当該内国法人が当該他の法人から配当等の額を受け、かつ、当該配当等の額に係る決議日等において当該内国法人と当該他の法人との間に特定支配関係があった場合におけるその受けた配当等の額をいう(法令119条の3第10項かっこ書き)。ただし対象配当等の額と同様に完全支配関係内みなし配当等の額は除外される。また当該対象配当等の額を受ける日の属する事業年度開始の日後に当該内国法人が当該他の法人との間に最後に特定支配関係を有することとなった場合には、その有することとなった日が対象期間の開始日となる。
決議日等とは、剰余金の配当等で当該剰余金の配当等に係る決議の日又は決定の日があるものの場合はこれらの日である(法令119条の3第12項1号イ)。当該剰余金の配当等に係る決議の日又は決定の日がない場合は当該剰余金の配当等がその効力を生ずる日であるが、その効力を生ずる日の定めもない場合は当該剰余金の配当等がされる日である(法令119条の3第12項1号ロ)。みなし配当の場合は当該みなし配当事由が生じた日が決議日等となる(法令119条の3第12項1号ハ)。
2.適用除外要件
次に掲げる要件のいずれかに該当するときは子会社株式簿価減額特例は適用されない(法令119条の3第10項、法令119条の4第1項)。
- 内国株主割合要件
- 特定支配日利益剰余金額要件
- 10年超支配要件
- 金額要件
詳細については別記事「子会社株式簿価減額特例が適用除外となる要件」参照。
3.簿価減額の額
(1)原則
益金不算入規定により益金の額に算入されない金額(法令119条の3第10項)。ただし同一事業年度内配当等の額のうちにこの項の規定の適用を受けなかったものがある場合には、その適用を受けなかった同一事業年度内配当等の額のうち益金不算入規定により益金の額に算入されない金額の合計額も含まれる(法令119条の3第10項かっこ書き)。
(2)特例計算
①内容
子会社株式簿価減額特例の適用を受ける内国法人が、その受ける対象配当等の額に係る基準時の属する事業年度の確定申告書、修正申告書又は更正請求書に当該対象配当等の額及び同一事業年度内配当等の額並びに特定支配後増加利益剰余金額超過額及びその計算に関する明細を記載した書類を添付し、かつ、一定の書類を保存している場合には、子会社株式簿価減額特例の適用により帳簿価額から減算する金額は、同項の規定にかかわらず、当該対象配当等の額及び同一事業年度内配当等の額の合計額のうち当該特定支配後増加利益剰余金額超過額に達するまでの金額(益金不算入規定により益金の額に算入されない金額に限る。)となる(法令119条の3第11項)。
②特定支配後増加利益剰余金額超過額
特定支配後増加利益剰余金額超過額とは、原則として支配後配当等の額の合計額が特定支配後増加利益剰余金額を超える部分の金額に相当する金額から当該内国法人が当該対象配当等の額を受ける前に当該他の法人から受けた配当等の額のうち子会社株式簿価減額特例の適用に係る金額を控除した金額をいう。支配後配当等の額とは、特定支配日から当該対象配当等の額を受ける時までの間に子会社株式簿価減額特例に係る他の法人の株主等が当該他の法人から受ける配当等の額で、当該配当等の額に係る基準時が特定支配日以後であるものをいう。
当該支配後配当等の額のうちに当該内国法人以外の者が受ける配当等の額がある場合には、支配後配当等の額の合計額が特定支配後増加利益剰余金額を超える部分の金額に当該支配後配当等の額のうち当該内国法人が受ける配当等の額の合計額が当該支配後配当等の額の合計額のうちに占める割合を乗じて計算した金額に相当する金額から当該内国法人が当該対象配当等の額を受ける前に当該他の法人から受けた配当等の額のうち子会社株式簿価減額特例の適用に係る金額を控除した金額が特定支配後増加利益剰余金額超過額となる。
③特定支配後増加利益剰余金額
特定支配後増加利益剰余金額とは、原則として次のイに掲げる金額にロに掲げる金額を加算した金額からハに掲げる金額を減算した金額をいう(法令119条の3第11項1号)。
- イ 法人税法施行令第10項第2号イに掲げる金額
- ロ 特定支配日から当該対象配当等の額に係る決議日等の属する当該他の法人の事業年度開始の日の前日までの間に当該他の法人の株主等が当該他の法人から受けた配当等の額(当該配当等の額に係る基準時が当該特定支配日以後であるものに限る。)に対応して減少した当該他の法人の利益剰余金の額の合計額
- ハ 法人税法施行令第10項第2号ハに掲げる金額
例外的に対象事業年度の期間内に特定支配日がある場合で、利益剰余金期中増加及び期中配当等があった場合は、次のイに掲げる金額からロに掲げる金額を減算した金額をいう(法令119条の3第11項2号)。
- イ 当該対象配当等の額を受ける直前の当該他の法人の利益剰余金の額から当該対象事業年度の前事業年度の貸借対照表に計上されている利益剰余金の額を減算した金額と当該対象事業年度開始の日から当該直前の時までの期間内に当該他の法人の株主等が当該他の法人から受ける配当等の額に対応して減少した当該他の法人の利益剰余金の額の合計額とを合計した金額
- ロ 当該特定支配日の前日の当該他の法人の利益剰余金の額から当該前事業年度の貸借対照表に計上されている利益剰余金の額を減算した金額と当該対象事業年度開始の日から当該前日までの期間内に当該他の法人の株主等が当該他の法人から受ける配当等の額に対応して減少した当該他の法人の利益剰余金の額の合計額とを合計した金額
対象事業年度とは当該対象配当等の額を受ける日の属する当該他の法人の事業年度をいう。対象事業年度が当該他の法人の設立の日の属する事業年度である場合、「前事業年度」を「その設立の時」と読み替える。
当該対象事業年度が当該他の法人の設立の日の属する事業年度である場合にあっては、利益剰余金期中増加及び期中配当等があった場合に準ずる場合として財務省令で定める場合に例外が適用される。
④特例計算の適用を受けるための書類
次の書類を保存している場合、特例計算の適用を受けることができる(法規27条2項)。
- 他の法人の特定支配日前に最後に終了した事業年度(当該特定支配日の属する事業年度が当該他の法人の設立の日の属する事業年度である場合には、その設立の時)から対象配当等の額に係る決議日等前に最後に終了した事業年度までの各事業年度の貸借対照表、損益計算書及び株主資本等変動計算書、社員資本等変動計算書、損益金の処分に関する計算書その他これらに類する書類
- 支配後配当等の額を明らかにする書類
- 特定支配後増加利益剰余金額の計算の基礎となる書類
- 上記のほか特定支配後増加利益剰余金額超過額の計算の基礎となる書類
4.申告時の添付書類
内国法人が受ける対象配当等の額及び同一事業年度内配当等の額の合計額が当該対象配当等の額及び同一事業年度内配当等の額に係る各基準時の直前において当該内国法人が有する配当等を支払う他の法人の株式又は出資の帳簿価額のうち最も大きいものの10%に相当額を超える場合には、当該内国法人は、当該対象配当等の額に係る基準時の属する事業年度の確定申告書に次の事項を記載した書類を添付しなければならない(法令119条の3第16項、法規27条4項)。
- 各基準時の直前において内国法人が有する他の法人の株式又は出資の帳簿価額のうち最も大きいもの
- 適用除外要件のうち内国株主割合要件又は特定支配日利益剰余金額要件に該当する場合には、その旨
- 基準時の直前における帳簿価額から減算される金額
- その他参考となるべき事項
例外的に適用除外要件のうち10年超支配要件又は金額要件のいずれかに該当する場合並びに当該対象配当等の額及び同一事業年度内配当等の額のいずれについても益金不算入規定の適用を受けない場合は添付する義務はない(法令119条の3第16項かっこ書き)。