1.概要
法人税の課税所得の計算は会計上の利益を前提に行われる。会計と税務で取扱いが異なり課税所得と利益に差がでることを税会不一致という。この税会不一致が生じる場合、投資法人で配当を行っていても課税が生じる場合がある。また金額によっては90%超配当要件を満たせず、配当を損金の額に算入することができなくなる可能性もある。投資法人については税会不一致に対して一定の手当てがなされている。一般的な手当として一時差異等調整引当額と一時差異等調整積立金がある。
2.一時差異等調整引当額
(1)基本的な内容
課税所得が会計上の利益を超える場合における税会不一致を所得超過税会不一致という(投資法人計算規則2条2項30号イ)。一時差異等調整引当額は所得超過税会不一致に対する一般的な手当である。
(2)一時差異等調整引当額の意義
投資法人は、その投資主に対し、役員会の承認を受けた金銭の分配に係る計算書に基づき、利益を超えて金銭の分配をすることができる(投信法137条1項本文)。これを利益超過分配金額という。この利益超過分配金額のうち、所得超過税会不一致と純資産控除項目の合計額の範囲内において、利益処分に充当するものを一時差異等調整引当額という(投資法人計算規則2条2項30号)。純資産控除項目とは、新投資口予約権並びに新投資口申込証拠金及び自己投資口の合計額が負となる場合におけるその合計額をいう(投資法人計算規則2条2項30号ロ)。
一時差異等調整引当額は利益超過分配の一部であるため、一時差異等調整引当額は利益超過分配であるが、利益超過分配がすべて一時差異等調整引当額でないことに注意する必要がある。
(3)一時差異等調整引当額の会計上の取扱い
一時差異等調整引当額は出資総額から控除され、他の出資総額控除額と区分して表示しなければならない(投資法人計算規則39条3項)。
(4)一時差異等調整引当額の税務上の取扱い
投資法人が支払う配当等は導管性要件を満たすことで損金の額に算入することができる。この配当等は基本的に投信法上の金銭の分配の額である(措法67条の15第1項、法法23条1項2号)。従って導管性要件を満たした投資法人が金銭の分配を行えば、原則としてその金銭の分配の額は損金の額に算入することができる。ただし損金の算入の対象となる金銭の分配から出資等減少分配は除外されている(法法23条1項2号かっこ書き)。そのため出資等減少分配を行っても基本的に損金の額に算入することができない。出資等減少分配は税務上の用語であり、出資総額等の減少に伴う金銭の分配のことをいう。利益超過分配は会計上の用語であるが、基本的に出資等減少分配に該当する。そのため基本的に損金の額に算入することができない。一時差異等調整引当額は利益超過分配であるため、この論理では損金の額に算入することができないように思える。しかし利益超過分配のうち一時差異等調整引当額となる部分は、税務上出資等減少分配から除外されている(法規8条の4)。そのため導管性要件を満たすことで一時差異等調整引当額を損金の額に算入することができる。
3.一時差異等調整積立金
(1)基本的な内容
会計上の利益が課税所得を超える場合における税会不一致を利益超過税会不一致という(投資法人計算規則2条2項31条)。一時差異等調整積立金は利益超過税会不一致に対する一般的な手当である。利益超過税会不一致が生じる場合、会計上の利益が課税所得を上回っているので、会計上の利益を配当することにより課税所得はなくなる。しかし利益超過税会不一致が解消したときに配当できる利益が少なくなり課税が生じる可能性がある。かといって利益超過税会不一致が生じたときに配当を少なくするとは90%超配当要件を満たせなくなる可能性が出てくる。これに対応するのが一時差異等調整積立金である。
(2)一時差異等調整積立金の意義
一時差異等調整積立金とは、投資法人が金銭の分配に係る計算書に基づき積み立てた任意積立金のうち、利益超過税会不一致の範囲内において、将来の利益処分に充当する目的のために留保したものをいう(投資法人計算規則2条2項31条)。
(3)一時差異等調整積立金の会計上の取扱い
一時差異等調整積立金は任意積立金に含まれるが、一時差異等調整積立金は他の任意積立金と区分して表示しなければならない(投資法人計算規則39条5項)。
(4)一時差異等調整積立金の税務上の取扱い
他の任意積立金と区分して表示された一時差異等調整積立金の金額は配当可能利益の額から控除される(措規22条の19第2項3号)。そのため利益超過税会不一致が生じた事業年度に一時差異等調整積立金を積み立てることで、その部分は配当しなくても90%超配当要件を満たすことができる。