1.概要
投資法人は基本的に事業を行い利益を獲得し、投資主に対して獲得した利益の分配として金銭の分配を行う。ただし投資法人は、その投資主に対し役員会の承認を受けた金銭の分配に係る計算書に基づき、利益を超えて金銭の分配をすることができる。そのため金銭の分配には獲得した利益の範囲内の分配と獲得した利益を超えた分配に分けることができる。後者を会計上利益超過分配という。前者の名称は特に決まっていないが、ここでは「通常の金銭の分配」という。
通常の金銭の分配は税務上配当等として扱われる。そのため導管性要件を満たすことで投資法人側では損金の額に算入することができる。それに対して利益超過分配は原則としてみなし配当として扱われ、一部のみ配当等として扱われる。そのため利益超過分配を行っても、全額損金の額に算入できず、投資法人側で課税が生じる。金銭の分配に出資の払戻が含まれている場合、みなし配当となるのは自然である。しかし投資法人の場合、所得超過税会不一致が生じたときに利益超過分配を行い損金の額に算入できないと課税が生じてしまう。所得超過税会不一致とは課税所得が会計上の利益を上回る税会不一致である。例えば会計上の利益が100で、課税所得が150の場合、100金銭の分配を行っても50課税所得が残り、投資法人に課税が生じる。投信法上150金銭の分配をすることができるが、50部分は税務上みなし配当となり、課税所得が残る。このようなときのため一時差異等調整引当額という仕組みが設けられている。利益超過分配のうち一時差異等調整引当額に対応する部分は税務上配当等として取り扱われる。利益超過分配は一時差異等調整引当額に対応する部分とそうでない部分に分かれる。特に名称は決まっていないが、ここでは前者を単に「一時差異等調整引当額」、後者を「単なる利益超過分配」という。
2.利益超過分配と出資等減少分配
投資法人は、その投資主に対し役員会の承認を受けた金銭の分配に係る計算書に基づき、利益を超えて金銭の分配をすることができる(投信法137条1項本文)。利益を超えた金銭の分配を利益超過分配という。利益超過分配は会計上の概念である。
利益超過分配に対する税務上の概念は出資等減少分配である。出資等減少分配は税務上の概念であり、原則として投資法人が行う利益超過分配のことをいう(法規8条の4)。
3.単なる利益超過分配の会計と税務
(1)会計
利益超過分配の金額を出資総額又は出資剰余金の額から控除しなければならない(投信法137条3項)。最初に出資剰余金の額から控除し、出資剰余金から控除をしてもなお控除しきれない利益超過分配金額があるときは、これを出資総額から控除する(投資法人計算規則18条)。
(2)税務
投資法人の行う金銭の分配は税務上原則として配当等に該当する(法法23条1項2号)。そのため導管性要件を満たすことで損金の額に算入することができる。しかし単なる利益超過分配は税務上出資等減少分配に該当する。出資等減少分配は配当等から除外されているため、単なる利益超過分配は税務上配当等に該当しない(法法23条1項2号かっこ書き)。ただし配当等に該当しないが、みなし配当事由に該当する。すなわち投資法人が単なる利益超過分配をした場合において、その金銭の額及び金銭以外の資産の価額の合計額がその投資法人の資本金等の額のうちその交付の基因となった投資口に対応する部分の金額を超えるときは、その超える部分の金額は配当等とみなされる(法法24条1項4号)。簡単に言えば利益超過分配の一部が配当等とみなされる。投資法人が導管性要件を満たしていればその部分が損金の額に算入することができる。
4.一時差異等調整引当額の会計と税務
(1)一時差異等調整引当額の意義
一時差異等調整引当額とは利益超過分配金額のうち、所得超過税会不一致と純資産控除項目の合計額の範囲内において、利益処分に充当するものをいう(投資法人計算規則2条2項30号)。
(2)会計
純資産の部の出資総額控除額に一時差異等調整引当額が含まれているときは、その一時差異等調整引当額をその他の出資総額控除額と区分して表示しなければならない(投資法人計算規則39条3項後段)。同様に純資産の部の出資剰余金控除額に一時差異等調整引当額が含まれているときは、その一時差異等調整引当額をその他の出資剰余金控除額と区分して表示しなければならない(投資法人計算規則39条3項後段)。
(3)税務
一時差異等調整引当額は出資等減少分配から除外されている(法規8条の4かっこ書き)。一時差異等調整引当額は出資等減少分配に該当しない金銭の分配であるため、税務上配当等として扱われる。投資法人側では導管性要件を満たすことで全額損金の額に算入することができる。