Ⅰ.損益分配
1.基本的な課税関係
匿名組合による利益又は損失は組合員に帰属する(法基通14-1-3、所基通36・37共-21)。組合員に帰属した利益又は損失は、営業者の損失又は利益となる(法基通14-1-3、所基通36・37共-21の2)。これを一般的に損益分配という。
損益分配は利益の配当がなくても生じる。
匿名組合員が個人の場合、その所得区分が問題となる。所得税では所得を利子所得、配当所得などいくつかの区分に分類し、それぞれ適用される規定が異なっている。匿名組合の損益の分配による所得は原則として雑所得に分類される(所基通36・37共-21前段)。例外的に匿名組合員が組合事業に係る重要な業務執行の決定を行っているなど組合事業を営業者と共に経営していると認められる場合には、当該匿名組合員が当該営業者から受ける利益の分配は、当該営業者の営業の内容に従い、事業所得又はその他の各種所得となる(所基通36・37共-21後段)。
2.損益分配の時期
匿名組合員が法人である場合、匿名組合の損益は匿名組合事業の計算期間の末日の属する事業年度の益金の額又は損金の額に算入する(法基通14-1-3)。匿名組合員が個人である場合も同様と考える(「平成17年度税制改正及び有限責任事業組合契約に関する法律の施行に伴う任意組合等の組合事業に係る利益等の課税の取扱いについて」Ⅲ2(1)問22参照)。
3.匿名組合員による匿名組合事業の損失の取込制限
過去匿名組合を利用した過度な節税が行われたため、法人税では匿名組合事業の損失の取込を制限する規定が作られている。所得税では規定が作られていないが、国税庁により損失の取込が制限されている旨の解釈が公開されている。
なお匿名組合員において匿名組合事業の損失の取込が制限されても、営業者には影響がない。
(1)匿名組合員が法人の場合
①損失が生じた事業年度
匿名組合員である法人の当該組合事業による損失の額として政令で定める金額を組合等損失額という。匿名組合員である法人が以下の要件をすべて満たす場合、その当該事業年度の組合等損失額のうち一定の金額は損金の額に算入されない(措法67条の12第1項)。
- 法人が特定組合員に該当すること
- 組合契約に係る組合事業につきその債務を弁済する責任の限度が実質的に組合事業に係る財産の価額とされている場合その他の政令で定める場合に該当すること
特定組合員とは、組合契約に係る組合員のうち、組合事業に係る重要な財産の処分若しくは譲受け又は組合事業に係る多額の借財に関する業務の執行の決定に関与し、かつ、当該業務のうち契約を締結するための交渉その他の重要な部分を自ら執行する組合員その他の政令で定める組合員以外のものをいう(措法67条の12第1項括弧書)。匿名組合員は営業者の業務を執行することができない(商法536条3項)。そのため匿名組合員は通常特定組合員に該当する。
損金に算入できない金額は次の区分に応じそれぞれに定める金額である。
当該組合事業に帰せられる損益が実質的に欠損とならないと見込まれるものとして政令で定める場合に該当する場合 | 当該組合等損失額 |
上記以外の場合 | その当該事業年度の組合等損失額のうち当該法人の当該組合事業に係る出資の価額を基礎として政令で定めるところにより計算した金額を超える部分の金額 |
②その後の事業年度
上記の規定により損金の額に算入できなかった組合等損失超過合計額が有する場合において、その後匿名組合事業による利益が生じたときは、組合等損失超過合計額のうち当該事業年度の当該法人の組合事業による利益の額として政令で定める金額に達するまでの金額は、当該事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入する(措法67条の12第2項)。
(2)匿名組合員が個人の場合
①損失が生じた年
匿名組合員が負担する損失の価額は各計算期間においていまだ確定していないため、当該損失の分担額を当該計算期間の各種所得の計算上必要経費に算入することはできない(「平成17年度税制改正及び有限責任事業組合契約に関する法律の施行に伴う任意組合等の組合事業に係る利益等の課税の取扱いについて」Ⅲ2(1)問23)。
②その後の年
翌営業年度以降に当該匿名組合事業に利益が生じた場合については、出資の欠損額を填補した後に分配を受ける利益が、各種所得の金額の計算上総収入金額に算入される(「平成17年度税制改正及び有限責任事業組合契約に関する法律の施行に伴う任意組合等の組合事業に係る利益等の課税の取扱いについて」Ⅲ2(1)問23)。
Ⅱ.現金分配
1.現金分配の意義
明確な定義があるわけではないが、現金分配とは一般的に営業者から匿名組合員に現金を分配することをいう。現金分配は匿名組合事業による利益の匿名組合員への分配であることが多いが、匿名組合出資の払戻も金銭分配に含まれる。
2.現金分配と源泉徴収
(1)支払者側の処理
匿名組合契約に基づく利益の分配をする場合、支払者(通常は営業者)は原則として以下の通り源泉徴収する必要がある。
匿名組合員の属性 | 課税標準 | 税率 | 条文 |
居住者又は内国法人 | 利益の分配の額 | 20.42% | 所法210条、211条 |
非居住者又は外国法人 | 利益の分配の額 | 20.42% | 所法212条1項、213条1項1号 |
源泉徴収が必要なのは利益の分配をする場合であるため、現金分配が出資の払戻である場合は源泉徴収が不要である。
支払者は源泉徴収した金額を徴収した月の翌月10日までに国に納付しなければならない(所法210条、所法212条1項)。
また支払者は支払調書をその支払いが確定した年の翌年1月31日までに税務署長に提出しなければならない(所法22条1項3号)。
(2)匿名組合員側の処理
居住者又は内国法人は申告時に源泉徴収された金額につき税額控除を受けることができる(居住者については、所法128条、内国法人については法法68条1項・所法174条9号・法令140条の2第1項2号)
Ⅲ.匿名組合出資の譲渡
匿名組合出資を譲渡した場合、譲渡対価が出資の取得価額を超える場合と下回る場合が考えられる。匿名組合員が法人である場合、その差額は益金の額または損金の額に算入されると考える。匿名組合員が個人である場合、資産の譲渡による所得として譲渡所得として課税されると考える(所法33条1項)。譲渡所得には総合課税されるものと分離課税されるものがある。分離課税となる措法37条の10第2項の「株式等」に該当しないため、総合課税される譲渡所得として課税されると考える。
Ⅳ.匿名組合契約の終了
匿名組合契約を解除した場合など以下の場合は匿名組合契約が終了する(商法541条、540条)
- 匿名組合契約の解除
- 匿名組合の目的である事業の成功又はその成功の不能
- 営業者の死亡又は営業者が後見開始の審判を受けたこと
- 営業者又は匿名組合員が破産手続開始の決定を受けたこと
匿名組合契約が終了したときは、営業者は、匿名組合員にその出資の価額を返還しなければならない(商法542条)。匿名組合が終了し、出資を返還する場合、返還される金額が出資額よりも大きい場合と小さい場合が考えられる。匿名組合員が法人である場合はその差額は益金の額または損金の額に算入され、匿名組合員が個人である場合は雑所得の所得又は損失となると考える。