1.圧縮記帳の会計処理
圧縮記帳については税務上は直接減額方式を原則としつつ積立金方式も認められている。直接減額方式によると固定資産の取得価額を減額することになるため、会計上は積立金方式が好ましいとされる。積立金方式による場合、税務上の圧縮損は会計上費用とならないため、将来加算一時差異となり、繰延税金負債を計上することになる。
2.積立時の会計処理と税務調整
(1)会計処理
以下のケースにおいて積立金方式によった場合、将来加算一時差異は4,000生じるため、繰延税金負債を1,200計上することになる。
取得した資産の種類 | ソフトウェア |
取得価額 | 5,000 |
補助金の額 | 4,000 |
圧縮限度額 | 4,000 |
圧縮額 | 4,000 |
耐用年数 | 5年 |
償却方法 | 定額法 |
残存価額 | 0 |
取得時期 | X1年度期首 |
実効税率 | 30% |
圧縮額は4,000であるが、会計上積立金として積み立てる金額は2,800(=4,000-1,200)である(税効果会計に係る会計基準の適用指針15.)。仕訳にすると以下のとおりである。
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
圧縮積立金 | 2,800 | 繰延利益剰余金 | 2,800 |
法人税等調整額 | 1,200 | 繰延税金負債 | 1,200 |
(2)税務調整
圧縮損が4,000計上される。積立金方式による場合、損金の額に算入される圧縮損は積立金として積み立てた金額である。会計上は2,800しか積み立てられていないため、圧縮損は2,800となりそうである。この点については質疑応答事例において繰延税金負債額の種類別の明細表を申告書に添付した場合は、税効果相当額についても損金算入されることが明らかにされている(質疑応答事例「税効果会計を適用している法人が租税特別措置法上の諸準備金等を剰余金の処分により積み立てた場合における損金算入額(法人税申告書に「明細表」を添付する場合)」)。また繰延税金負債を計上したことによる法人税等調整額は否認される。
仕訳にすると以下のとおりである。
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
圧縮積立金認定損(別表四) | 4,000 | 圧縮積立金認定損(別表五(一)) | 4,000 |
繰延税金負債 | 1,200 | 法人税等調整額 | 1,200 |
別表五(一)では圧縮積立金認定損と繰延税金負債が計上されるが、その他会計上の圧縮積立金が計上される。圧縮記帳では利益積立金額は増減しない(法令9条参照)。しかし会計上は圧縮積立金の額だけ繰越利益剰余金が減少する。現行の別表五(一)の様式では繰越損益金の欄に繰越利益剰余金を記載することとなっている。そのため圧縮積立金を積み立てることで繰越損益金が同額減少し、そのままだと別表五(一)で表される利益積立金額が減少してしまう。そのため会計上の圧縮積立金を別表五(一)に記載する必要がある。
区分 | 期首現在利益積立金額 | 当期の増減 | 差引翌期首現在利益積立金額 | |
---|---|---|---|---|
減 | 増 | |||
圧縮積立金 | 2,800 | ・・・ | ||
圧縮積立金認定損 | △4,000 | ・・・ | ||
繰延税金負債 | 1,200 | ・・・ | ||
差引合計額 | 0 | ・・・ |
3.減価償却時の会計処理と税務調整
(1)基本的な会計処理と税務調整
減価償却資産につき圧縮記帳後、減価償却を行っていくが、減価償却超過額分圧縮積立金を取崩すことが実務上の慣行となっている。調べた限り取崩しを強制する法令等はなく、積み立てをしてもしなくても課税所得は変わらない。
(2)圧縮積立金を取り崩さない場合の会計処置と税務調整
①会計処理
減価償却を行う。圧縮記帳前の取得価額で減価償却を行うため、減価償却費は1,000である。後述するように税務上は圧縮記帳後の取得価額で減価償却を行うため、減価償却費は200である。そのため差額に対して繰延税金資産240が生じる。
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
減価償却費 | 1,000 | ソフトウェア | 1,000 |
繰延税金資産 | 240 | 法人税等調整額 | 240 |
②税務調整
税務では圧縮記帳後の取得価額で減価償却を行う(法令54条3項)。そのため減価償却費は200である。また税効果会計は否認される。税務調整仕訳は以下のようになる。
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
ソフトウェア | 800 | 減価償却超過額 | 800 |
法人税等調整額 | 240 | 繰延税金資産 | 240 |
(3)圧縮積立金を取り崩す場合の会計処置と税務徴税
①会計処理
実務上は圧縮積立金を減価償却超過額相当額取り崩す場合が多い。取り崩す場合、積立時と同様に繰延税金負債も取り崩す。圧縮積立金の取崩しをする場合において、減価償却超過額がある場合には認容される。そのため減価償却超過額分の繰延税金資産が取り崩される。この場合、仕訳は以下の通りになる。
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
減価償却費 | 1,000 | ソフトウェア | 1,000 |
繰延税金資産 | 240 | 法人税等調整額 | 240 |
圧縮積立金 | 560 | 繰延利益剰余金 | 560 |
繰延税金負債 | 240 | 法人税等調整額 | 240 |
法人税等調整額 | 240 | 繰延税金資産 | 240 |
繰延税金資産部分は相殺されるため、実務上は相殺した仕訳をしていることが多いと思われる。相殺すると以下の仕訳になる。
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
減価償却費 | 1,000 | ソフトウェア | 1,000 |
圧縮積立金 | 560 | 繰延利益剰余金 | 560 |
繰延税金負債 | 240 | 法人税等調整額 | 240 |
②税務調整
圧縮積立金の取崩額は益金の額に算入される。それと同時に益金の額算入された金額だけ減価償却超過額が認容される(法基通10-1-3)。そのため減価償却超過額と同額圧縮積立金を取り崩した場合、減価償却超過額は加算と認容で最終的に相殺される。
会計上②の相殺後の仕訳をしたとすると税務調整仕訳は以下のようになる。
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
ソフトウェア | 800 | 減価償却超過額 | 800 |
圧縮積立金認定損(別表五(一)) | 800 | 圧縮積立金取崩額(別表四) | 800 |
減価償却超過額 | 800 | ソフトウェア | 800 |
法人税等調整額 | 240 | 繰延税金負債 | 240 |
減価償却超過額部分を相殺すると以下の通りである。
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
圧縮積立金認定損(別表五(一)) | 800 | 圧縮積立金取崩額(別表四) | 800 |
法人税等調整額 | 240 | 繰延税金負債 | 240 |
4.圧縮積立金を取り崩す場合の初年度の会計処理と税務調整
(1)会計処理
今までのものをまとめると以下の通りである。圧縮積立金の積立及び取崩しは資本等変動計算書で別項目として表示されると思われるため相殺はしていない。
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
減価償却費 | 1,000 | ソフトウェア | 1,000 |
圧縮積立金 | 2,800 | 繰延利益剰余金 | 2,800 |
圧縮積立金 | 560 | 繰延利益剰余金 | 560 |
法人税等調整額 | 960 | 繰延税金負債 | 960 |
(2)税務調整
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
圧縮積立金認定損(別表四) | 4,000 | 圧縮積立金認定損(別表五(一)) | 4,000 |
圧縮積立金認定損(別表五(一)) | 800 | 圧縮積立金取崩額(別表四) | 800 |
繰延税金負債 | 960 | 法人税等調整額 | 960 |
別表五(一)は以下のようになる。
区分 | 期首現在利益積立金額 | 当期の増減 | 差引翌期首現在利益積立金額 | |
---|---|---|---|---|
減 | 増 | |||
圧縮積立金 | 560 | 2,800 | 2,240 | |
圧縮積立金認定損 | △800 | △4,000 | △3,200 | |
繰延税金負債 | 960 | 960 | ||
差引合計額 | △240 | △240 | 0 |