1.減資の基本的な会計・税務
(1)減資の会計の基本
株式会社は、資本金の額を減少することができる(会社法447条1項)。これを一般的に減資という。減資が行われた場合、原則として減資した金額だけその他資本剰余金が増加する(会社計算規則27条1項1号)。例外的に株主総会で減少する資本金の額の全部又は一部を資本準備金としたときは、その金額だけ資本準備金が増加し、減資した金額との差額だけその他資本剰余金が増加する(会社法446条1項2号、会社計算規則26条1項1号、27条1項1号)。
(2)減資の税務の基本
①資本金の減少による効果
法人税では中小企業に対する優遇措置が設けられている。中小企業の判定には主に資本金の額が用いられており、減資はその判定に影響を与える。
②資本金等の額への影響
法人税では資本金等の額という概念がある。資本金等の額は資本金の額に一定の項目を加減算した金額である(法令8条1項本文)。資本金等の額はみなし配当の計算や法人住民税における均等割の算定、外形標準課税における資本割の計算などに影響がある。
資本金等の額は資本金の額に一定の項目を加減算した金額であるため、その点では減資により資本金等の額は減少する。しかし資本金の額に加算する項目に減資した金額が含まれるため、資本金が減少した金額だけ資本金等が増加する(法令8条1項12号)。そのため減資単体では資本金等の額は増減しない。
例えば減資前の資本金の額が100,000,000円、資本金等の額は加減算する項目はなく資本金の額と同額の100,000,000円だったとする。ここで30,000,000円減資したとする。資本金等の額は減資した金額だけ減少する。減資した金額は資本金等の額に加算する項目に含まれているため同額資本金等の額が増加する。結果資本金等の額は増減せず100,000,000円のままである。減資前の資本金等の額は次の算式で表すことができる。
資本金等の額 = 100,000,000 + 0 – 0 = 100,000,000
減資後の資本金等の額を算式で表すと次のようになる。
資本金等の額 = 70,000,000 + 30,000,000 – 0 = 100,000,000
2.欠損填補
(1)欠損填補の会計
株式会社は、株主総会の決議によって、損失の処理をすることができる(会社法452条前段)。この「損失の処理」とは、利益剰余金がマイナスの場合に資本剰余金で補填することとされる。いわゆる欠損填補である。
欠損填補をする場合、利益剰余金のマイナスの額を限度として資本剰余金を減少し、利益剰余金を増加する。会社法上資本剰余金は資本準備金とその他資本剰余金で構成される(会社計算規則76条4項)。このうち資本準備金を減少させた場合、その他資本剰余金か資本金が増加し、利益剰余金は増加しない(会社法448条1項2号、会社計算規則25条1項1号、27条1項2号)。そのため欠損填補を行う場合、その他資本剰余金を減少させることになる。一方会社法上の利益剰余金は利益準備金とその他利益剰余金である(会社計算規則76条5項)。このうち利益準備金は資本剰余金の減少により増加しない(会社計算規則28条1項)。そのため欠損填補により増加する利益剰余金はその他利益剰余金となる。
(2)欠損填補の税務
①資本金等の額への影響
欠損填補は資本金の額に影響がなく、資本金等の額の加減算の項目でもないため、資本金等の額に影響を与えない。
②均等割への影響
資本割の算定基準は資本金等の額であるが、これは法人税の資本金等の額に一定の調整をしたものである(地法23条1項4号の2イ、292条1項4号の2イ)。欠損填補した金額は原則として地方税の資本金等の額の計算上控除する。厳密には平成18年5月1日以後に資本金の額又は資本準備金の額を無償で減少し、その他資本剰余金として計上したものを損失の填補に充てた金額は地方税の資本金等の額の計算上控除する(地法23条1項4号の2イ(3)、292条1項4号の2イ(3)、地規1条の9の6第2項、9条の19第2項)。ここでいう損失とはその他利益剰余金の額が零を下回る場合におけるその零を下回る額をいう(地規1条の9の6第2項、9条の19第2項)。
ただし資本金等の額が資本金の額及び資本準備金の額の合算額又は出資金の額に満たない場合、資本金の額及び資本準備金の額の合算額又は出資金の額が均等割の課税標準となる(地法52条4項、312条6項)。
3.有償減資
(1)有償減資の会計
会社法では減資にともなって払戻をする制度はない。
そのため減資にともなう払戻と同様の効果をもたらそうとする場合、減資と剰余金の分配を行うことで有償減資と同様の効果をもたらすことができる。
(2)有償減資の税務
①有償減資した法人の税務
資本剰余金の額の減少に伴う剰余金の配当は資本の払戻しに含まれ、みなし配当事由に該当する(法法24条1項4号)。
無償減資と異なり、資本の払戻しに該当する場合、資本金等の額が資本の払戻し等に係る減資資本金額減少する(法令8条1項18号)。
減資資本金額とは原則として資本の払戻し等の直前の資本金等の額に(1)に掲げる金額のうちに(2)に掲げる金額の占める割合を乗じて計算した金額をいう(法令8条1項18号イ)。
(1)資本の払戻しの日の属する事業年度の前事業年度終了の時の資産の帳簿価額から負債の帳簿価額を減算した金額
(2)その資本の払戻しにより減少した資本剰余金の額
資本の払戻しにより交付した金銭の額及び金銭以外の資産の価額の合計額がその資本の払戻しに係る減資資本金額を超える場合、その超える部分の金額が利益積立金額が減少する(法令9条12号)。
①有償減資した法人の株主の税務
資本剰余金の額の減少に伴う剰余金の配当は資本の払戻しに含まれ、みなし配当事由に該当する(法法24条1項4号)。みなし配当事由により交付された金銭の額及び金銭以外の資産の価額の合計額がみなし配当を行った法人の資本金等の額のうちその交付の基因となったその法人の株式又は出資に対応する部分の金額を超えるときは、その超える部分の金額は配当とみなされる(法法24条1項)。
株主の有する株式のうち払戻し部分は譲渡したものとされ、有償減資により交付された金銭の額及び金銭以外の資産の価額の合計額のうちみなし配当以外の部分の金額は株式の譲渡対価の額とされる。その譲渡原価は株主の有するその法人の株式の簿価のうち払戻等割合を乗じた金額である(法法61条の2第18項、法令119条の9第1項)。