1.特定受益証券発行信託の定義
受益権を表示する証券を受益証券といい、受益証券を発行する旨の定めがある信託を受益証券発行信託という(信託法185条3項)。
受益証券発行信託のうち、次に掲げる要件のすべてに該当するものを特定受益証券発行信託という(法法2条29条ハ、所法2条1項15号の5)。
- ①信託事務の実施につき政令で定める要件に該当するものであることについて政令で定めるところにより税務署長の承認を受けた法人が引き受けたものであること
- ②各計算期間終了の時における利益留保割合が2.5%を超えない旨の信託行為における定めがあること(法令14条の4第11項)
- ③各計算期間開始の時において、その時までに到来した利益留保割合の算定の時期として政令で定めるもののいずれにおいてもその算定された利益留保割合が2.5%を超えていないこと
- ④その計算期間が一年を超えないこと。
- ⑤受益者が存しない信託に該当したことがないこと。
この要件を満たさない受益証券発行信託は税務上法人課税信託として受託者に対して課税される(法法2条29号の2イ、所法2条1項8号の3等)。
2.特定受益証券発行信託の課税関係
(1)基本的な課税関係
信託については原則として受益者にその信託による利益が帰属するものとして課税される(所法13条1項本文、法法12条1項本文)。この課税関係が適用される信託を一般的に受益者等課税信託というが、特定受益証券発行信託は受益者等課税信託ではない。特定受益証券発行信託は集団投資信託に該当する(所法13条3項1号、法法2条29号)。集団投資信託についてはこの原則が適用されず、特定受益証券発行信託の収益の分配時に受益者に課税される(所法13条1項但書、法法12条1項但書)。
主な違いは課税時期である。受益者が個人である場合を考える。ある個人が受益者となっている信託があり、1年目に60、2年目に60の利益が生じ、2年目に120収益の分配をしたものとする。受益者等課税信託であれば、1年目の60の利益に対し、1年目に課税され、2年目も同様に課税される。それに対して集団投資信託では1年目は収益の分配がないため課税がなされず、2年目に120の利益に対して課税される。
また特定受益証券発行信託の受益者が個人の場合、所得の分類が異なる。個人の所得についてはその所得が不動産所得や事業所得のいずれに該当するかにより課税関係が異なる。受益者等課税信託の場合、信託財産の内容により所得の分類が決まる。例えば信託財産が賃貸不動産であれば、その信託による所得は不動産所得として課税される。それに対して特定受益証券発行信託の場合、後述するように収益の分配は配当所得として課税され、受益権の譲渡は譲渡所得として課税される。
(2)収益分配時の課税関係
①受益者が個人の場合
受益者が個人の場合、特定受益証券発行信託の収益の分配は配当所得として課税される(所法24条1項)。配当所得に関してはその配当等が上場株式等に係るものかそれ以外の一般株式等に係るものかどうかによりさらに課税関係が異なる。信託契約の締結時において委託者が取得する受益権の募集が公募により行われた特定受益証券発行信託の収益の分配は上場株式等の配当所得として課税される(措法8条の4第1項4号)。それ以外のものは一般株式等に係る配当所得として課税される。
上場株式等の配当所得に該当する場合、所得税率は復興特別所得税を合わせて15.315%、住民税率は5%となる。一般株式等に係る配当所得に該当する場合、他の所得と合算され所得税は5.105%から45.945%の税率で課税され、住民税は10%税率で課税される。
通常一般株式等に係る配当所得については配当控除が適用されるが、特定受益証券発行信託の収益の分配は配当控除の対象となっていないため、配当控除は適用されない。
なお投資法人の金銭の分配は所得税法上は配当控除の対象となっている(所法92条1項)。しかし措置法によりその適用が停止されている(措法9条1項5号イ)。
②受益者が法人の場合
受益者が法人の場合、特段の規定はないため特定受益証券発行信託の収益の分配の額はその事業年度の益金の額に算入する。法人税では受取配当等の益金不算入の規定があり、配当等のうち一定の金額は益金の額に算入しない。所得税では特定受益証券発行信託の収益の分配は配当所得として扱われるが、法人税法上は受取配当等の益金不算入の規定の対象となる配当等には含まれないため、受取配当等の益金不算入の規定は適用されない。
(3)受益権譲渡時の課税関係
①受益者が個人の場合
受益者が個人の場合、特定受益証券発行信託の受益権の譲渡による所得は株式等に係る譲渡所得として課税される。株式等に係る譲渡所得も上場株式等に係るものか一般株式等に係るものかで異なる。上場株式等に係るものかどうかの判定基準は収益の分配の場合と同じである(措法37条の11第2項3号の2)。
譲渡所得に対して課税される税率は上場株式等に係るものと一般株式等に係るものとで同じであり、所得税が15.315%、住民税が5%である。
他の所得との損益通算は上場株式等に係るものかどうかで異なる。一般株式等に係る譲渡所得は他の所得と損益通算することができない(措法37条の10第6項4号)。上場株式等に係る譲渡所得も基本的に同様である(措法37条の11第6項)。ただし上場株式等に係る譲渡損失の金額は上場株式等に係る配当所得等の金額から控除することができる(措法37条の12の2第1項)。
また上場株式等に係る譲渡損失は3年間繰り越すことができる(措法37条の12の2第5項)。それに対し一般株式等に係る譲渡損失は繰り越すことができない(繰越控除を定めた規定がない)。
②受益者が法人の場合
受益者が法人の場合、特段の規定はないため受益権の譲渡による利益又は損失はその事業年度の益金の額又は損金の額に算入する。
(4)消費税
消費税についても原則として受益者に対して課税される(消法14条1項本文)。例外的に特定受益証券発行信託を含む集団投資信託については信託財産に係る資産等取引は受託者が行ったものとされ、受託者に課税される(消法14条1項但書、消費税法基本通達4-2-2)。