投資事業有限責任組合(LPS)と金融商品取引法

1.金融商品取引法におけるLPSに対する出資の位置づけ

LPSに対する出資は金融商品取引法上、第二項有価証券に該当し、そのうちいわゆる集団投資スキーム持分に該当する(金商法2条2項5号)。

2.LPS持分の募集・私募

(1)募集・私募の意義

新たに発行される有価証券の取得の申込みの勧誘を取得勧誘という(金商法2条3項)。有価証券の募集とは、取得勧誘のうち、その有価証券の種類に応じ一定の要件を満たすものをいう(金商法2条3項)日常用語としては募集というよりは公募といった方がわかりやすいかもしれない。有価証券の私募とは、取得勧誘であって有価証券の有価証券の募集に該当しないものをいう(金商法2条3項)。

LPSは金融商品取引法上、第二項有価証券に該当し、有価証券とみなされる。そのためその取得勧誘に応じることにより500名以上の者がその取得勧誘に係る有価証券を所有することとなる場合には、金融商品取引法上の「有価証券の募集」に該当する(金商法2条3項3号、金商令1条の7の3)。それ以外の取得勧誘が「有価証券の私募」に該当する。

(2)LPS出資の募集又は私募と金融商品取引業

有価証券の募集又は私募のうち一定のものは金融商品取引業となる(金商法2条8項7号)。集団投資スキーム持分の募集又は私募を業として行う場合、第二種金融商品取引業に該当する(金商法2条8項7号ヘ、28条2項1号)。従ってLPSの出資の募集又は私募を行う場合、第二種金融商品取引業の登録を受けなければならない(金商法29条)。

ただしいわゆる適格機関投資家等特例業務に該当する場合、届出のみでLPS出資の私募を行うことができる(金商法63条)。一定の適格機関投資家等を相手方として行う集団投資スキーム持分の私募は適格機関投資家等特例業務に該当する(金商法63条1項1号)。そのため第二種金融商品取引業の登録は不要とされる(金商法63条1項)。ただしあらかじめ届出を行わなければならない(金商法63条2項)。また募集は適格機関投資家等特例業務に該当しない。

(3)無限責任組合員による募集又は私募

LPSは金融商品取引法上、無限責任組合員が発行者とみなされるため、無限責任組合員による募集又は私募はLPSの自己募集又は自己私募に該当する。金融商品取引法上「発行者」とは、原則として、有価証券を発行し又は発行しようとする者をいう(金商法2条5項)。ただしみなし有価証券の発行者については一定の者が発行者とみなされる(金商法2条5項)。LPSについては無限責任組合員が発行者とみなされる(定義府令14条3項4号ハ)。そのため無限責任組合員が自己が無限責任組合員となっているLPSの募集又は私募を行う場合、自己募集又は自己私募に該当する。

集団投資スキーム持分の募集又は私募は第二種金融商品取引業に該当するため、あるLPSの無限責任組合員がそのLPSの募集又は私募を行う場合も原則として第二種金融商品取引業の登録をしなければならない。

ただし無限責任組合員が取得勧誘を第三者に委託する場合、登録は不要と考えられている。また私募については適格機関投資家等特例業務の要件を満たす場合は前述の通り届出のみで行うことができる。

3.組合財産の運用

(1)組合財産の運用と金融商品取引業

金融商品の価値等の分析に基づく投資判断に基づいて主として有価証券又はデリバティブ取引に係る権利に対する投資として、集団投資スキームにより出資又は拠出を受けた金銭その他の財産の運用を行うことは金融商品取引業のうち投資運用業に該当する(金商法28条4項3号、2条8項15号)。従ってLPSの組合財産を有価証券等により運用する場合、投資運用業の登録を受けなければならない(金商法29条)。

(2)例外

①適格機関投資家等特例業務

集団投資スキーム持分を有する適格機関投資家等から出資され又は拠出された金銭を運用することは適格機関投資家等特例業務に該当する(金商法63条1項2号)。そのため届出のみで組合財産を有価証券等で運用することができる。

②外部委託する場合

組合財産の運用を外部委託する場合、一定の要件を満たすと金融商品取引業に該当しないため、登録が不要となる。金融商品取引業とは金融商品取引法2条8項各号に掲げられている行為のいずれかを業として行うことをいう。ただしその内容等を勘案し、投資者の保護のため支障を生ずることがないと認められるものとして政令で定められたものについては金融商品取引業から除外されている(金商法2条8項本文かっこ書き)。金融商品取引業から除外されるものについては金融商品取引法施行令1条の8の6第1項各号で定められているが、さらに内閣府令に委任されている(金商令1条の8の6第1項4号)。これを受けて定義府令16条1項でさらに金融商品取引業から除外されるものが定められている。このうち定義府令16条1項10号で集団投資スキームに係る投資運用業から除外されるものが定義されている。

投資運用業から除外されるものの実体面に関する要件をまとめると以下のようになる。

出資契約等に関する要件出資契約等において、次に掲げる事項の定めがあること。
(1)運用を行う権限の全部を委託する旨及び委託する金融商品取引業者等の商号又は名称(その金融商品取引業者等が適格投資家向け投資運用業を行うことにつき金融商品取引業の登録を受けた者であるときは、その旨を含む)(定義府令16条1項10号イ(1))
(2)その投資一任契約の概要(定義府令16条1項10号イ(2))
(3)その投資一任契約に係る報酬を運用財産から支払う場合には、その報酬の額(あらかじめ報酬の額が確定しない場合においては、その報酬の額の計算方法)(定義府令16条1項10号イ(3))
(4)委託を受ける金融商品取引業者等は、LPSの出資者のため忠実に投資運用業を行わなければならないこと(定義府令16条1項10号ロ(1))
(5)委託を受ける金融商品取引業者等は、LPSの出資者に対し、善良な管理者の注意をもって投資運用業を行わなければならないこと(定義府令16条1項10号ロ(2))
(6)委託を受ける金融商品取引業者等は、原則として、自己取引又は利益相反取引を行うことができないこと(定義府令16条1項10号ハ)
投資一任契約に関する要件投資一任契約において、次に掲げる事項の定めがあること。
(1)委託を受ける金融商品取引業者等は、LPSの出資者のため忠実に投資運用業を行わなければならないこと(定義府令16条1項10号ロ(1))
(2)委託を受ける金融商品取引業者等は、LPSの出資者に対し、善良な管理者の注意をもって投資運用業を行わなければならないこと(定義府令16条1項10号ロ(2))
(3)委託を受ける金融商品取引業者等は、原則として、自己取引又は利益相反取引を行うことができないこと(定義府令16条1項10号ハ)
財産の分別管理に関する要件無限責任組合員が、金融商品取引法に規定する方法に準ずる方法により、運用財産と自己の固有財産及び他の運用財産とを分別して管理し、その管理を委託先の金融商品取引業者等が監督すること(定義府令16条1項10号ニ)

上記の実体面の要件を満たしたうえ、出資契約等の成立前に一定の事項を届け出ると金融商品取引業に該当しなくなる(定義府令16条1項10号ホ)。また届け出た事項に変更があった場合、遅滞なくその旨も届け出る必要がある(定義府令16条1項10号ヘ)。