1.調整対象固定資産の意義
過去建物を購入し、その売買代金に係る消費税の還付を受けた後、消費税の納税義務の免除を受けるなどのスキームが流行ったため、それらを防止するための措置がとられている。その一つが調整対象固定資産である。調整対象固定資産とは、棚卸資産以外の資産で、建物、構築物、機械及び装置、船舶、航空機、車両及び運搬具、工具、器具及び備品、鉱業権その他の資産で、一の取引単位につき100万円以上のものをいう(消法2条1項16号、消令5条)。この調整対象固定資産については①納税義務の判定、②仕入税額控除の計算という点で通常と異なる取扱いが定められている
2.調整対象固定資産と消費税の納税義務
(1)調整対象固定資産と課税事業者選択届出書
課税事業者選択届出書を提出し、消費税の還付を受けた後に課税事業者選択不適用届出書を提出することで消費税の納税義務を免れるというスキームを防ぐため、課税事業者選択届出書を提出した場合に調整対象固定資産を取得した場合に一定要件を満たした場合、一定期間課税事業者選択不適用届出書を提出できなくなる措置が設けられている。
すなわち課税事業者選択届出書を提出した事業者が、その提出した日の属する課税期間の翌課税期間の初日から同日以後2年を経過する日までの間に開始した各課税期間で、簡易課税の適用を受けていない課税期間中に調整対象固定資産の仕入れ等を行った場合には、その調整対象固定資産の仕入れ等の日の属する課税期間の初日から3年を経過する日の属する課税期間の初日以後でなければ、課税事業者選択不適用届出書を提出することができない(消法9条7項)。簡易課税の場合、消費税還付は受けられないため、簡易課税の適用を受けている課税期間中に調整対象固定資産の仕入れ等を行っても、課税事業者選択不適用届出書の提出は制限されない。
(2)調整対象固定資産と新設法人・特定新規設立法人
新設法人又は特定新規設立法人が、その基準期間がない事業年度に含まれる各課税期間で、簡易課税の適用を受けていない課税期間中に調整対象固定資産の仕入れ等を行った場合には、その課税期間の初日以後3年を経過する日の属する課税期間まで消費税の納税義務は免除されない(消法12条の2第2項、12条の3第3項)。簡易課税の場合、消費税還付は受けられないため、簡易課税の適用を受けている課税期間中に調整対象固定資産の仕入れ等を行っても、この規定は適用されない。
3.調整対象固定資産と簡易課税制度
調整対象固定資産の課税仕入等を行ったことにより課税事業者選択不適用届出書が提出できない場合又は新設法人若しくは特定新規設立法人が調整対象固定資産の課税仕入等を行い消費税の納税義務が免除されない場合、次の区分に応じそれぞれに定める期間は原則として簡易課税制度選択届出書を提出することができない(消法37条3項)。
課税事業者選択届出書を提出した事業者が、その提出した日の属する課税期間の翌課税期間の初日から同日以後2年を経過する日までの間に開始した各課税期間で、簡易課税の適用を受けていない課税期間中に調整対象固定資産の仕入れ等を行った場合 | 調整対象固定資産の仕入れ等の日の属する課税期間の初日から同日以後3年を経過する日の属する課税期間の初日の前日までの期間(消法37条3項1号) |
新設法人又は特定新規設立法人が、その基準期間がない事業年度に含まれる各課税期間で、簡易課税の適用を受けていない課税期間中に調整対象固定資産の仕入れ等を行った場合 | 調整対象固定資産の仕入れ等の日の属する課税期間の初日から同日以後3年を経過する日の属する課税期間の初日の前日までの期間(消法37条3項2号) |
4.課税売上割合が著しく変動した場合の調整対象固定資産に関する仕入れに係る消費税額の調整
(1)概要
調整対象固定資産を保有している場合において、一定の要件を満たすときはその調整対象固定資産に係る消費税額につき仕入税額控除の調整を行う。具体的には通算課税売上割合により仕入税額控除をしなおす。通算課税売上割合とは、調整対象固定資産の仕入れ等の課税期間から第三年度の課税期間までの各課税期間において適用されるべき課税売上割合を政令で定めるところにより通算した課税売上割合をいう(消法33条2項)。第三年度の課税期間とは調整計算の対象となる調整対象固定資産に係る仕入れ等の課税期間の開始の日から3年を経過する日の属する課税期間をいう(消法33条2項)。調整計算の対象となる第三年度の課税期間の末日において有する調整対象固定資産を保有調整対象固定資産といい、保有調整対象固定資産に係る消費税額を調整対象基準税額という。
「調整対象基準税額に通算課税売上割合を乗じて計算した消費税額の合計額」と「調整対象基準税額に仕入等の課税期間における課税売上割合を乗じて計算した消費税額の合計額」を仕入税額控除の金額に加算又は減算する。
(2)適用される場合
以下の要件を満たす場合、第三年度において仕入税額控除の調整を行う(消法33条1項)。
- ① 調整対象固定資産の課税仕入に係る課税仕入れ等の税額につき比例配分法により仕入れに係る消費税額を計算したこと
- ② 課税事業者が第三年度の課税期間の末日において①の調整対象固定資産を有していること
- ③ 第三年度の課税期間における通算課税売上割合が仕入れ等の課税期間における課税売上割合に対して著しく増加又は減少したこと
(3)仕入税額控除の調整
①課税売上割合が著しく増加した場合
課税売上割合が著しく増加した場合、「調整対象基準税額に通算課税売上割合を乗じて計算した消費税額の合計額」から「調整対象基準税額に仕入等の課税期間における課税売上割合を乗じて計算した消費税額の合計額」を控除した金額を仕入税額控除の金額に加算する(消法33条1項)。
②課税売上割合が著しく減少した場合
課税売上割合が著しく減少した場合、「調整対象基準税額に仕入等の課税期間における課税売上割合を乗じて計算した消費税額の合計額」から「調整対象基準税額に通算課税売上割合を乗じて計算した消費税額の合計額」を控除した金額を仕入税額控除の金額から控除する(消法33条1項)。
5.調整対象固定資産の転用した場合の仕入税額控除の調整
(1)概要
一定期間内に課税業務の用に供していた調整対象固定資産を非課税業務用に転用した場合又は非課税業務の用に供していた調整対象固定資産を課税業務用に転用した場合、転用した調整対象固定資産につき仕入税額控除の調整が行われる。
(2)課税業務用調整対象固定資産を非課税業務用に転用した場合の仕入税額控除の調整
①適用される場合
以下の要件を満たす場合、仕入税額控除の調整を行う(消法34条1項)。
- ① 課税事業者が国内において調整対象固定資産の課税仕入れ等を行い、その調整対象固定資産に係る調整対象税額につき個別対応方式により課税資産の譲渡等にのみ要するものとして仕入れに係る消費税額を計算したこと
- ② ①の調整対象固定資産をその課税仕入れ等の日から3年以内に非課税資産の譲渡等に係る業務の用に供したこと
②仕入税額控除の調整
非課税資産の譲渡等に係る業務の用に供した日が次に掲げる期間のいずれに属するかに応じそれぞれに定める消費税額を同日の属する課税期間における仕入れに係る消費税額から控除する(消法34条1項)。
調整対象固定資産の課税仕入れ等の日から同日以後1年を経過する日までの期間 | 調整対象税額に相当する消費税額 |
調整対象固定資産の課税仕入れ等の日からこれらの日以後1年を経過した日から同日以後1年を経過する日までの期間 | 調整対象税額の3分の2に相当する消費税額 |
調整対象固定資産の課税仕入れ等の日からこれらの日以後2年を経過した日から同日以後1年を経過する日までの期間 | 調整対象税額の3分の1に相当する消費税額 |
(3)非課税業務用調整対象固定資産を課税業務用に転用した場合の仕入税額控除の調整
①適用される場合
以下の要件を満たす場合、仕入税額控除の調整を行う(消法35条1項)。
- ① 課税事業者が国内において調整対象固定資産の課税仕入れ等を行い、その調整対象固定資産に係る調整対象税額につき個別対応方式により非課税資産の譲渡等にのみ要するものとして仕入れに係る消費税額を計算したこと
- ② ①の調整対象固定資産をその課税仕入れ等の日から3年以内に課税資産の譲渡等に係る業務の用に供したこと
②仕入税額控除の調整
課税資産の譲渡等に係る業務の用に供した日が次に掲げる期間のいずれに属するかに応じそれぞれに定める消費税額を同日の属する課税期間における仕入れに係る消費税額に加算する(消法35条1項)。
調整対象固定資産の課税仕入れ等の日から同日以後1年を経過する日までの期間 | 調整対象税額に相当する消費税額 |
調整対象固定資産の課税仕入れ等の日からこれらの日以後1年を経過した日から同日以後1年を経過する日までの期間 | 調整対象税額の3分の2に相当する消費税額 |
調整対象固定資産の課税仕入れ等の日からこれらの日以後2年を経過した日から同日以後1年を経過する日までの期間 | 調整対象税額の3分の1に相当する消費税額 |