適格合併による繰越欠損金の引継ぎ及び制限

1.概要

内国法人を合併法人とする適格合併が行われた場合において、その適格合併に係る被合併法人の適格合併の日前10年以内に開始した各事業年度において生じた欠損金額があるときは、その前10年内事業年度において生じた未処理欠損金額は、その内国法人の欠損金額とみなされ、被合併法人の繰越欠損金を引き継ぐことができる(法法57条2項)。

ただし合併法人と被合併法人との間に支配関係がある場合において、5年超の支配関係がないとき又は共同事業要件を満たさないときは、原則として、次の欠損金額は引き継ぐことができない(法法57条3項)。

  • 被合併法人の支配関係事業年度前の各事業年度で前10年内事業年度に該当する事業年度において生じた欠損金額
  • 被合併法人の支配関係事業年度以後の各事業年度で前10年内事業年度に該当する事業年度において生じた欠損金額のうち特定資産譲渡等損失額に相当する金額から成る部分の金額として政令で定める金額

2.5年超の支配関係

(1)基本的な内容

5年超の支配関係とは、原則として以下のいずれかに該当する場合をいう(法令112条4項)。

  • 被合併法人と合併法人との間に”合併法人の適格合併の日の属する事業年度開始の日の5年前の日”から継続して支配関係がある場合
  • 被合併法人又は合併法人が5年前の日後に設立された法人である場合であって、被合併法人と合併法人との間に被合併法人の設立の日又は合併法人の設立の日のいずれか遅い日から継続して支配関係があるとき

(2)被合併法人又は合併法人が5年前の日後に設立された法人である場合

以下の場合、設立の日から継続して支配関係があったとしても、5年超の支配関係がない(法令112条4項2号かっこ書き)。

  • 内国法人との間に支配関係がある他の内国法人を被合併法人とする適格合併で、被合併法人を設立するもの又は内国法人が他の内国法人との間に最後に支配関係を有することとなつた日以後に設立された被合併法人等を合併法人とするものが行われていた場合
  • 内国法人が他の内国法人との間に最後に支配関係を有することとなった日以後に設立された被合併法人との間に完全支配関係があるその他の内国法人で被合併法人が発行済株式又は出資の全部又は一部を有するものの残余財産が確定していた場合
  • 被合併法人等との間に支配関係がある他の法人を被合併法人、分割法人、現物出資法人又は現物分配法人とする適格組織再編成等で、その内国法人を設立するもの又は被合併法人がその他の法人との間に最後に支配関係を有することとなった日以後に設立されたその内国法人を合併法人、分割承継法人、被現物出資法人若しくは被現物分配法人とするものが行われていた場合

3.共同事業要件

(1)基本

次の①から④までに掲げる要件又は①と⑤に掲げる要件を満たす場合をいう(法令112条3項)。

  • ①適格合併に係る被合併法人の被合併事業と合併法人の合併事業とが相互に関連するものであること
  • 被合併事業と合併事業のそれぞれの売上金額等の規模の割合がおおむね5倍を超えないこと
  • 被合併事業がその適格合併に係る被合併法人が合併法人との間に最後に支配関係を有することとなった時からその適格合併の直前の時まで継続して行われており、かつ、被合併法人支配関係発生時と適格合併の直前の時における被合併事業の規模の割合がおおむね2倍を超えないこと
  • 合併事業が適格合併に係る合併法人が被合併法人との間に最後に支配関係を有することとなった時からその適格合併の直前の時まで継続して行われており、かつ、合併法人支配関係発生時と適格合併の直前の時における当該合併事業の規模の割合がおおむね2倍を超えないこと
  • 適格合併に係る被合併法人のその適格合併の前における特定役員である者のいずれかの者と合併法人のその適格合併の前における特定役員である者のいずれかの者とが適格合併の後に合併法人の特定役員となることが見込まれていること

(2)特定役員

特定役員とは、社長、副社長、代表取締役、代表執行役、専務取締役若しくは常務取締役又はこれらに準ずる者で法人の経営に従事している者をいう(法令112条3項5号かっこ書き)。

被合併法人側の特定役員のいずれかの者が適格合併後に合併法人の特定役員となることが見込まれていなければならない。特定役員は被合併法人が合併法人との間に最後に支配関係を有することとなった日前において被合併法人の役員又は役員に準ずる者であって、被合併法人の経営に従事していた者でなければならない(法令112条3項5号かっこ書き)。従って最後に支配関係を有することとなった日以後に特定役員となった者を合併後に引き続き特定役員としてもこの要件は満たせない。合併法人側の特定役員も同様である。いずれかの者であるため、特定役員のすべてが合併後も特定役員である必要はない。

4.引継ぎが制限される繰越欠損金額

(1)基本

適格合併による繰越欠損金の引継ぎが制限される場合、原則として、次の欠損金額は引き継ぐことができない(法法57条3項)。

  • 被合併法人の支配関係事業年度前の各事業年度で前10年内事業年度に該当する事業年度において生じた欠損金額
  • 被合併法人の支配関係事業年度以後の各事業年度で前10年内事業年度に該当する事業年度において生じた欠損金額のうち特定資産譲渡等損失額に相当する金額から成る部分の金額として政令で定める金額
    ただし一定の場合に該当する場合、引継ぎができない欠損金額の

(2)引継対象外未処理欠損金額の計算に係る特例

次に掲げる場合に該当する場合には、引継ぎができない繰越欠損金額はそれぞれの定める金額とすることができる(法令113条1項)。

被合併法人の支配関係事業年度前の各事業年度で前10年内事業年度に該当する事業年度において生じた欠損金額被合併法人の支配関係事業年度以後の各事業年度で前10年内事業年度に該当する事業年度において生じた欠損金額のうち特定資産譲渡等損失額に相当する金額から成る部分の金額として政令で定める金額
被合併法人の支配関係事業年度の前事業年度終了の時における時価純資産価額が簿価純資産価額以上である場合において、時価純資産価額から簿価純資産価額を減算した金額が被合併法人の支配関係事業年度開始の日前10年以内に開始した各事業年度において生じた欠損金額の合計額以上であるとき又は被合併法人の支配関係前未処理欠損金額がないときないものとする
被合併法人の支配関係事業年度の前事業年度終了の時における時価純資産超過額が被合併法人の支配関係前未処理欠損金額の合計額に満たない場合その合計額から時価純資産超過額を控除した金額が支配関係前未処理欠損金額のうち最も古いものから順次成るものとした場合に制限対象金額を構成するものとされた支配関係前未処理欠損金額があることとなる事業年度ごとにイに掲げる金額からロに掲げる金額を控除した金額
イ その事業年度の支配関係前未処理欠損金額のうち制限対象金額を構成するものとされた部分に相当する金額
ロ その事業年度の支配関係前未処理欠損金額のうち、繰越欠損金の繰越控除の規定により支配関係事業年度から当該適格合併の日の前日の属する事業年度までの各事業年度の所得の金額の計算上損金の額に算入された金額等
ないものとする
被合併法人の支配関係事業年度の前事業年度終了の時における時価純資産価額が簿価純資産価額に満たない場合で、かつ、その満たない金額が被合併法人等前10年内事業年度のうち支配関係事業年度以後の各事業年度において生じた同項第1号に規定する欠損金額に係る同号に掲げる金額の合計額に満たない場合原則通り簿価純資産超過額に相当する金額がその各事業年度における特定資産譲渡等損失相当額のうち最も古いものから順次成るものとした場合にその事業年度における特定資産譲渡等損失相当額のうち簿価純資産超過額に相当する金額を構成するものとされた部分に相当する金額を、各事業年度ごとに、それぞれ法令第112条第5項第1号に掲げる金額とみなして同項の規定を適用した場合に同項の規定により計算される法法第57条第3項第2号に規定する政令で定める金額に相当する金額