無対価の非適格分社型分割の税務と仕訳(資産超過の場合)

1.概要

無対価で非適格分社型分割が行われると多額の差額負債調整勘定が認識され、大きな税負担につながる場合がある。無対価で組織再編成等が行われる場合、企業グループ内の組織再編成等である場合又は債務超過である場合であることが多い。企業グループ内の組織再編成等であれば通常適格合併等に該当し、債務超過であれば非適格合併等に該当することが多いと思われる。分割事業が債務超過であれば、基本的に資産調整勘定が生じる。しかし分割事業が資産超過の場合において、無対価で非適格分社型分割が行われると差額負債調整勘定が生じる。

分割事業が資産超過にもかかわらず、無対価で非適格分社型分割が行われる場合としては、例えばある企業が一部の事業を外部の企業に売却する場合において、いったん新規の法人を設立し、その法人に対し無対価で分社型分割を行い、その設立した法人の株式を売却する場合がある。この場合、株式の継続保有要件が満たされないため、通常非適格分社型分割となる。無対価で資産超過の事業を引き継ぐため、設立された法人において多額の差額負債調整勘定が生じ、税金の負担が重くなることがある。この記事ではこの場合の税務の取扱いについて記載している。

2.前提

  • 分割事業のBSは以下の通りとする。
諸資産100,000諸負債60,000
  • 分割対価は0円とする。
  • 資産調整勘定等が生じる分社型分割に該当するものとする。
  • 分割法人では寄附は生じないものとする。
  • 分割承継法人の資本金は増加しない。
  • ☆分割法人は分割承継法人の株式をすべて保有している。

3.分割法人の税務

(1)税務仕訳

諸負債60,000諸資産100,000
譲渡損40,000

(2)資産の譲渡損益

純資産40,000の資産負債を無対価で譲渡するため、資産の譲渡損が生じる(①②)。

4.分割承継法人の税務

(1)概要

分割承継法人側は受け入れる資産の評定を行っているかどうかにより異なる。

(2)資産評定を行っていない場合

①税務仕訳

諸資産100,000諸負債60,000
差額負債調整勘定40,000
資本金等の額0

②資産負債の取得価額

時価で取得する(①)。

③差額負債調整勘定

無対価であるため、例外的に法人税法施行令123条の10第16項に基づき計算することになる。ただし資産評定を行っていない場合、同項1号に該当しない。また資産の方が大きいため、同項2号にも該当しない。そのため結局原則的な計算である法人税法62条の8第3項により計算する(国税庁「無対価の非適格分社型分割が行われた場合の差額負債調整勘定の金額(一定の資産評定が行われない場合)」)。分割の対価は0に対し、移転資産・移転負債の純資産価額は40,000であるため、差額負債調整勘定が40,000認識される(②)。

④資本金等の額の増加

資本金等の額が移転資産及び移転負債の純資産価額から分社型分割による増加資本金額等を減算した金額だけ増加する(法令8条1項7号)。無対価の非適格分社型分割で、かつ、分割法人が分割承継法人の発行済株式又は出資の全部を保有しているため、移転資産及び移転負債の純資産価額は、移転資産の価額から移転負債の価額を控除した金額となる(法令8条1項7号ハ)。この場合、移転資産の価額には資産調整勘定の金額を含み、移転負債の価額には差額負債調整勘定等の負債調整勘定の金額を含む(法令8条1項7号ハかっこ書き)。移転資産の価額は100,000であるが、移転負債の価額は受け入れる負債60,000と差額負債調整勘定40,000の合計額である100,000である。同額であるため移転資産及び移転負債の純資産価額は0円である。資本金は増加せず、無対価であるため増加資本金額等も0円である。そのため資本金額等の額は増加しない(③)。

(3)資産評定を行っている場合

①概要

資産評定を行っていない場合、無対価で資産負債を引き継いでいるため、多額の差額負債調整勘定が生じる場合がある。多額の差額負債調整勘定は5年をかけて益金の額に算入され、税負担につながる。それに対し資産評定行っている場合、その資産評定における営業権の評価額と非適格分社型分割により移転を受けた事業に係る一定の将来の債務の金額との差額が資産調整勘定又は差額負債調整勘定の金額となる(法令123条の10第16項1号)。

ここでいう資産評定は、非適格分社型分割により移転する資産及び負債の価額の公正な価額による評定で、非適格分社型分割の後にその資産及び負債の譲渡を受ける者、その資産及び負債を有する法人の株式等の譲渡を受ける者その他の利害関係を有する第三者又は公正な第三者が関与して行われるものに限られる(法規27条の16第3項)。

資産調整勘定等の計算における移転を受ける事業に係る将来の債務の金額は、分割承継法人が引き受けた将来の債務のうち、以下のものをいう(法規27条の16第4項)。

  • 資産評定による価額がその資産評定を基礎として作成された貸借対照表に計上されている負債に係るもの
  • その額、その算定の根拠を明らかにする事項及びその算定の基礎とした事項を記載した書類を保存している場合のその書類に記載されているもの

以下では資産評定における営業権が-10,000、将来の債務の金額は0円とした事例における税務仕訳等を示す。

②税務仕訳

諸資産100,000諸負債60,000
差額負債調整勘定10,000
資本金等の額30,000

③資産負債の取得価額

時価で取得する(①)。

④差額負債調整勘定

無対価であるため、例外的に法人税法施行令123条の10第16項に基づき計算することになる。この事例では資産評定を行っている。前述したように資産評定を行っている場合、資産評定における営業権の評価額と非適格分社型分割により移転を受けた事業に係る一定の将来の債務の金額との差額が資産調整勘定又は差額負債調整勘定の金額となる(法令123条の10第16項1号)。この場合、営業権は-10,000、将来の債務の金額は0であり、将来の債務の金額の方が10,000大きい。そのため差額負債調整勘定が10,000認識される(②)。

⑤資本金等の額

資本金等の額が移転資産及び移転負債の純資産価額から分社型分割による増加資本金額等を減算した金額だけ増加する(法令8条1項7号)。無対価の非適格分社型分割で、かつ、分割法人が分割承継法人の発行済株式又は出資の全部を保有しているため、移転資産及び移転負債の純資産価額は、移転資産の価額から移転負債の価額を控除した金額となる(法令8条1項7号ハ)。この場合、移転資産の価額には資産調整勘定の金額を含み、移転負債の価額には差額負債調整勘定等の負債調整勘定の金額を含む(法令8条1項7号ハかっこ書き)。移転資産の価額は100,000で、移転負債の価額と負債調整勘定の金額の合計額は70,000であるため、移転資産および移転負債の純資産価額は30,000である。資本金は増加せず、無対価であるため増加資本金額等は0円である。従って30,000資本金等の額が増加する(③)。