1.概要
分割とは株式会社等が事業に関して有する権利義務の全部又は一部を分割後他の会社に承継させることをいう(会社法2条28号、29号)。分割によりその有する資産又は負債の移転を行った法人を分割法人といい、分割により分割法人から資産又は負債の移転を受けた法人を分割承継法人という(法法2条1項12号の2、12号の3)。税務上分割は対価の受領先等により分割型分割と分社型分割に分かれる。このうち分社型分割とは基本的に分割により分割法人が交付を受ける分割対価資産がその分割の日においてその分割法人の株主等に交付されない分割をいう。分割型分割は分割の対価が分割法人の株主等に交付される分割をいう。ここではこの分社型分割について扱う。ただし分社型分割は分割の対価が分割法人の株主に交付されない分割であるため、合併や分割型分割と異なり基本的に分割法人の株主等に課税関係は生じない。そのため分割法人の株主等の課税関係には触れない。
分割は分割法人がその事業の全部又は一部を分割承継法人に譲渡する取引である。従って分割法人側では譲渡損益が一つの論点となる。また分割の対価が金銭以外の資産であればその取得価額も論点となる。この二つが分割法人側の論点である。分割承継法人は分割法人の事業の全部又は一部を譲り受けるため、その取得価額が論点となる。受け入れる資産負債等の差額は税務上基本的に資本金等の額となる。また後述する非適格分社型分割では、資産調整勘定等も論点となる。分割承継法人側では①譲り受けた資産負債の取得価額、②資本金等の額の増加、③資産調整勘定等が論点となる。
また税務では適格分割か非適格分割のいずれに該当するかによって課税関係が大きく異なる。適格分割の場合は資産負債は簿価での取引となり、非適格分割の場合は時価で取引されたものとされる。
2.分社型分割等の定義
(1)分社型分割の定義
税務上分社型分割とは、基本的に分割により分割法人が交付を受ける分割対価資産がその分割の日においてその分割法人の株主等に交付されない分割をいう(法法2条1項12号の10イ)。
無対価分割は取扱いが異なる。無対価分割は分割の対価がない分割であり、分割法人にも分割法人の株主等にも対価が交付されない分割である。分割法人の株主等に対価が交付されないという点では無対価合併は分社型分割に該当しそうであるが、この点については条文で別の定めがなされている。すなわち無対価分割はその分割の直前において分割法人が分割承継法人の株式を保有しており、かつ、分割承継法人が分割法人の発行済み株式等の全部を保有していない場合に限り、分社型分割に該当するものとされている(法法2条1項12号の10ロ)。この無対価分割以外の無対価分割は分割型分割に該当する(法法2条1項12号の9ロ)。
(2)適格分社型分割の定義
適格分社型分割とは、分社型分割のうち適格分割に該当するものをいう(法法2条1項12号の13)。
(3)適格分割の定義
次のいずれかに該当する分割で分割対価資産として分割承継法人又は分割承継親法人のうちいずれか一の法人の株式以外の資産が交付されないものをいう(法法2条1項12号の10)。従って分割の対価を現金等で支払った場合は原則として適格分割に該当しない。
- ①その分割に係る分割法人と分割承継法人との間にいずれか一方の法人による完全支配関係その他の政令で定める関係があるもの
- ②その分割に係る分割法人と分割承継法人との間にいずれか一方の法人による支配関係その他の政令で定める関係がある場合において、一定の要件に該当するもの
- ③その分割に係る分割法人と分割承継法人とが共同で事業を行うための分割として政令で定めるもの
- ④その分割に係る分割法人の分割前に行う事業をその分割により新たに設立する分割承継法人において独立して行うための分割として政令で定めるもの(一の法人のみが分割法人となる分割型分割に限る。)
④は分割型分割に限られるため、分社型分割は①から③により適格分割に該当するか判断する。
①から④の詳細は政令で定められているが、対応する政令は以下のとおりである。
場合 | 対応する政令 |
---|---|
① | 法令4条の3第6項 |
② | 法令4条の3第7項 |
③ | 法令4条の3第8項 |
④ | 法令4条の3第9項 |
この記事では詳細に触れない。 |
3.非適格分社型分割の税務
(1)分割法人
①移転資産負債の譲渡損益
内国法人が非適格分割により分割承継法人にその有する資産又は負債の移転をしたときは、分割承継法人に移転した資産及び負債を分割の時の価額により譲渡をしたものとして、その内国法人の各事業年度の所得の金額を計算する(法法62条1項前段)。分割により移転する資産負債に係る譲渡損益は分割の日の属する事業年度の益金の額又は損金の額に算入される。
②取得した資産の取得価額
分社型分割は分割の対価が分割法人の株主等に交付されず、分割承継法人が取得する分割である。そのため分社型分割により交付された分割承継法人の株式等は分割法人が取得する。分割承継法人の株式等の場合、その取得価額はその取得の時におけるその有価証券の取得のために通常要する価額とされる(法令119条1項27号)。それ以外の資産の場合、特段の規定がないため取得時の時価が取得価額となる。
(2)分割承継法人
①取得した資産負債の取得価額
特段の規定はないため、取得時の時価が取得価額となる。
②資産調整勘定等
内国法人が一定の非適格分社型分割により分割法人から資産又は負債の移転を受けた場合において、その対価が移転を受けた資産及び負債の時価純資産価額を超えるときは、その超える部分の金額のうち政令で定める部分の金額は、資産調整勘定の金額とされる(法法62条の8第1項)。逆に分社型分割の対価が移転を受けた資産及び負債の時価純資産価額に満たないときは、その満たない部分の金額は、負債調整勘定の金額とされる(法法62条の8第3項)。
この規定の対象となる非適格分社型分割は、分割法人の非適格分割の直前において行う事業及びその事業に係る主要な資産又は負債のおおむね全部が分割承継法人に移転するものである(法令123条の10第1項)。該当しなければ非適格分社型分割であっても、資産調整勘定等の規定は適用されない。
③資本金等の額の増加
資本金等の額は資本金の額又は出資金の額に一定金額を加減算した金額である(法令8条1項)。そのため特段の規定はないが分社型分割により増加した資本金の額又は出資金の額だけ資本金等の額は増加する。
これとは別に資本金の額又は出資金の額に加減算する一定の金額として資本金等の額が分社型分割による移転資産及び移転負債の純資産価額から分社型分割による増加資本金額等を減算した金額だけ増加する(法令8条1項7号)。ポイントは①移転資産及び移転負債の純資産価額と②分社型分割による増加資本金額等である。
移転資産及び移転負債の純資産価額は原則としては分社型分割により分割法人に交付した分割承継法人の株式その他の資産の価額の合計額である(法令8条1項7号イ)。例外もあり、まとめると以下の場合に応じそれぞれの金額である。
移転資産及び移転負債の純資産価額 | |
---|---|
①原則(下記のいずれかにも該当しない場合) | 分社型分割により分割法人に交付したその法人の株式その他の資産の価額の合計額 |
②適格分社型分割に該当しない分社型分割のうち資産調整勘定又は各負債調整勘定の適用対象でないもの(無対価分割に該当するものを除く。) | 移転資産の価額から移転負債の価額を減算した金額(法令8条1項7号ロ) |
③適格分社型分割に該当しない分社型分割のうち無対価分割で分割法人が分割承継法人の発行済株式又は出資の全部を保有する関係があるもの | 移転資産の価額から移転負債の価額を控除した金額(法令8条1項7号ハ) ※移転資産の価額には資産調整勘定の金額を含み、移転負債の価額には負債調整勘定の金額を含む。 |
それぞれの規定が適用されるケースをまとめると以下のとおりである。
前提事実 | 税務上の取扱 | |||
非適格分割の直前において行う事業及びその事業に係る主要な資産又は負債のおおむね全部の移転 | 分社型分割の対価 | 資産調整勘定等の計上 | 資本調整勘定等の金額 | 資本金等の額計算上の純資産価額 |
移転する | あり | 計上する(法令123条の10第1項) | 移転資産負債の純資産価額と分社型分割の対価との差額(法法62条の8第1項、3項) | 分社型分割の対価(法令8条1項7号イ) |
なし | 法人税法施行令123条の10第16項に基づき計算した金額 | <分割法人が分割承継法人の発行済株式等の全部を保有する関係があるもの> 移転資産の価額から移転負債の価額を減算した金額(法令8条1項7号ロ) <それ以外> 分社型分割の対価(法令8条1項7号イ) | ||
移転しない | – | 計上しない(法令123条の10第1項) | – | 移転資産の価額から移転負債の価額を減算した金額(法令8条1項7号ロ) |
分社型分割による増加資本金額等は、以下の合計額である(法令8条1項7号かっこ書)。
- 分社型分割により増加した資本金の額又は出資金の額
- 分社型分割により分割法人に交付した金銭の額
- 分社型分割により分割法人に交付した分割承継法人の株式以外の資産の価額の合計額
4.適格分社型分割の税務
(1)分割法人
①移転資産負債の譲渡損益
内国法人が適格分社型分割により分割承継法人にその有する資産又は負債の移転をしたときは、分割承継法人に移転した資産及び負債を適格分社型分割の直前の帳簿価額により譲渡をしたものとして、その内国法人の各事業年度の所得の金額を計算する(法法62条の3第1項)。
②取得した分割承継法人の株式等の取得価額
分社型分割は分割の対価が分割法人の株主等に交付されず、分割承継法人が取得する分割である。適格分社型分割に該当する場合、対価は分割承継法人又は分割承継親法人の株式のみである。そのため適格分社型分割により交付を受けた分割承継法人又は分割承継親法人の株式は分割法人が取得する。分割法人が取得した分割承継法人又は分割承継親法人の株式の取得価額は適格分社型分割直前の移転資産の帳簿価額から移転負債の帳簿価額を減算した金額とされる(法令119条1項7号)。
(2)分割承継法人
①取得した資産負債の取得価額
内国法人が適格分社型分割により分割法人から資産又は負債の移転を受けた場合には、移転を受けた資産及び負債の取得価額は、適格分社型分割直前の分割法人における帳簿価額に相当する金額が取得価額となる(法令123条の4)。
②資本金等の額の増加
資本金等の額は資本金の額又は出資金の額に一定金額を加減算した金額である(法令8条1項)。そのため特段の規定はないが分社型分割により増加した資本金の額又は出資金の額だけ資本金等の額は増加する。
これとは別に資本金の額又は出資金の額に加減算する一定の金額として資本金等の額が分社型分割による移転資産及び移転負債の純資産価額から分社型分割による増加資本金額等を減算した金額だけ増加する(法令8条1項7号)。ポイントは①移転資産及び移転負債の純資産価額と②分社型分割による増加資本金額等である。
移転資産及び移転負債の純資産価額は、適格分社型分割に係る分割法人の適格分社型分割の直前の移転資産の帳簿価額から移転負債の帳簿価額を減算した金額である(法令8条1項7号ニ)。
分社型分割による増加資本金額等は、以下の合計額である(法令8条1項7号かっこ書)。
- 分社型分割により増加した資本金の額又は出資金の額
- 分社型分割により分割法人に交付した金銭の額
- 分社型分割により分割法人に交付した分割承継法人の株式以外の資産の価額の合計額
③資産調整勘定等
適格分社型分割の場合、適用はない。