2024年定額減税に係る給料計算と年末調整

はじめに

この記事は令和6年税制改正が国会で可決される前に法案を見て執筆している。記載している条文番号はすべて改正後のものである。本来であれば可決された後に書くべきである。しかし定額減税が給与計算に反映されるのが6月であり、3月の下旬から5月は3月決算で忙しいため現段階で調べ、執筆している。改正後の政令、省令はまだ明らかでないが、法案で明らかにされていないものは国税庁から公開されているQ&Aを基にしている。

1.定額減税の概要

定額減税に係る給与計算と年末調整を理解するため、まず定額減税自体を理解する必要がある。

(1)定額減税が適用される者

所得税に係る定額減税の適用がある者は居住者で令和6年分の所得税に係る合計所得金額が1,805万円以下の者である(措法41条の3の3第1項)。住民税も金額は同様であるが、住民税は前年の所得により市町村が課税するため、令和5年の合計所得金額が基準となる(地法附則5条の8第1項、4項)。住民税の場合、扶養の判断においても前年(令和5年)が基準となるのは同様であるため、以下では特段言及しない。

(2)定額減税の金額

簡単に言えば本人・配偶者・扶養親族の数に応じ所得税と住民税合わせて1人当たり4万円減税される。所得税3万円、住民税が1万円である。

①所得税

以下の者一人につき3万円が、本人の所得税額から控除される(措法41条の3の3第2項)。

  • 本人
  • 同一生計配偶者
  • 扶養親族
    例えば同一生計配偶者1人、扶養親族2人の場合、本人と合わせて4人であるため、12万円控除される。

同一生計配偶者又は扶養親族に該当するかは原則として令和6年12月31日で判定する(措法41条の3の3第3項)。また定額控除の対象となる者については居住者に限られる。居住者でない同一生計配偶者や扶養親族は定額減税の対象とならない(措法41条の3の3第2項)。

②住民税

以下の者一人につき1万円が、最終的に本人の住民税の所得割から控除される(地法附則5条の8第2項、5項、5条の12第1項)。

  • 本人
  • 同一生計配偶者
  • 扶養親族
    住民税の定額減税額はその者の住民税の所得割額の率により道府県民税と市町村民税に按分される(地法附則5条の8第2項、5項)。

住民税の定額減税には令和6年の定額減税と令和7年の定額減税がある。基本的に令和6年の定額減税ですべて行われるが、同一生計配偶者のうち控除対象配偶者以外の者に係る定額減税については令和7年分の住民税で行われる。これは市町村が定額減税が行われる令和6年6月時点で控除対象配偶者以外の同一生計配偶者を把握することができないためである。

③同一生計配偶者の意義

所得税法上同一生計配偶者とは、居住者の配偶者でその居住者と生計を一にするもののうち、合計所得金額が48万円以下である者をいう(所法2条1項33号)。

④扶養親族の意義

配偶者以外の居住者の親族等でその居住者と生計を一にするもののうち、合計所得金額が48万円以下である者をいう(所法2条1項34号)。

⑤合計所得金額が48万円以下という基準

基礎控除が48万円であるため、合計所得金額が48万円以下である場合、課税所得は0となり所得税は課税されない。合計所得金額が48万円を超えた場合、税金が発生するため、配偶者・扶養親族に対して課税される税金につき定額減税を行うことになる。合計所得金額が48万円以下である場合、定額減税できないため、一定の要件を満たした配偶者・扶養親族については、それらを扶養している者の定額減税の対象としてカウントされる。

(3)定額減税を行う事由

給与所得者については給与計算計算時と年末調整時に定額減税を反映する必要があるが、退職給与の支払時は定額減税の対象とならない。

2.定額減税と給与計算

(1)給与等に係る源泉徴収と定額減税

①定額減税を行うべき者

主たる給与等の支払者が源泉徴収時に定額減税を行う(措法41条の3の7第1項)。従って従たる給与等の支払者は源泉徴収時に定額減税を行う必要はない。扶養控除等申告書の提出を受けた者が主たる給与等の支払者となるため、扶養控除等申告書の提出を受けていない者であれば、定額減税を行う必要はない。

②定額減税の対象となる給与等

令和6年6月以降の最初の給与等の支払時の源泉徴収の際、定額減税を行う(措法41条の3の7第1項)。6月の給与等から控除しきれない場合は次の給与等の支払時に順次控除する(措法41条の3の7第2項)。年末調整時に一括して控除することはできない。

基本的に6月以降に支払われた最初の令和6年分給与等が定額減税の対象である。給与か賞与を問わないため6月の給与より先に6月に賞与を支払う場合、賞与に係る源泉徴収から定額減税を行う。また令和6年分の給与等であれば発生月も関係がないため、例えば令和6年4月分の給与等が未払いとなっていたものを6月に支払い、それが6月以降最初に支払われたものであればその4月分の給与等につき定額減税を行う。

③給与等支払時の定額減税の対象者

令和6年6月1日時点で勤務している者が対象となる。従って5月31日までに退職した者は対象とならない。また6月2日以降に就職した者も対象とならない。対象とならない者は年末調整や確定申告で適用を受けることになる。

また給与等支払時の定額減税については令和6年分の合計所得金額が1,805万円を超えると見込まれる者も対象となる(措法41条の3の7第1項参照、所得制限は定められていない)。合計所得金額が1,805万円を超えると定額減税は最終的に受けることはできない。後述するように年末調整時は合計所得金額が1,805万円を超えると見込まれると定額減税の対象とならない(措法41条の3の8第1項)。そのため年末調整の対象となる者は年末調整で精算される。年末調整の対象とならない者は定額減税の適用を受けない形で確定申告を行い、精算される。いずれにせよ合計所得金額が1,805万円を超えた場合、最終的に定額減税の適用は受けない。

なお公的年金等に係る源泉所得税についても定額減税がなされる。その場合であっても給与等に係る源泉所得税についても定額減税を行う。二重に定額減税がなされるが、こちらも確定申告で精算することになる。

④給与等支払時の定額減税の額

以下の者一人につき3万円を源泉所得税から控除して源泉徴収を行う(措法41条の3の7第3項)。

  • 本人
  • 同一生計配偶者
  • 扶養親族

⑤定額減税の額の算定方法

扶養控除等申告書により把握できるものは扶養控除等申告書により把握する(措法41条の3の7第3項1号、2号)。扶養控除等申告書により把握できないものもあるが、それらについては給与等の支払を受ける者から「源泉徴収に係る定額減税のための申告書」の提出を受けて把握する(措法41条の3の7第3項3号、4号)。「源泉徴収に係る定額減税のための申告書」は後述する「年末調整に係る定額減税のための申告書」と兼ねたものが国税庁HPにおいて公開されている。

<同一生計配偶者の把握>

同一生計配偶者とは、前述した通り居住者の配偶者でその居住者と生計を一にするもののうち、合計所得金額が48万円以下である者をいう(所法2条1項33号)。給与計算のために従業員等から扶養控除等申告書の提出を受ける。この扶養控除等申告書に記載があるのは源泉控除対象配偶者である。源泉控除対象配偶者とは、合計所得金額が900万円以下である居住者の配偶者でその居住者と生計を一にする者のうち、合計所得金額が95万円以下である者をいう(所法2条1項33号の3)。源泉控除対象配偶者と定額減税の対象となる同一生計配偶者とは一致しない。源泉控除対象配偶者のうち合計所得金額の見積額が48万円以下の者については同一生計配偶者となるため、その部分については扶養控除等申告書により把握することになる。それに対して本人の所得が900万円超である同一生計配偶者は源泉控除対象配偶者に含まれないため、扶養控除等申告書では把握することができない。そちらは追加で給与等の支払を受ける者から交付を受ける「源泉徴収に係る定額減税のための申告書」により把握する。「源泉徴収に係る定額減税のための申告書」は条文上は従業員等が定額減税を受けるため任意で提出するものである。

<扶養親族の把握>

扶養親族とは、配偶者以外の居住者の親族等でその居住者と生計を一にするもののうち、合計所得金額が48万円以下である者をいう(所法2条1項34号)。扶養控除等申告書に記載されるのは控除対象扶養親族である。控除対象扶養親族とは扶養親族のうち、16歳以上の者をいう(所法2条1項34号の2イ)。控除対象扶養親族は扶養親族に該当する。その部分は扶養控除等申告書により把握する。しかし控除対象扶養親族には16歳未満の扶養親族は含まれない。16歳未満の扶養親族についても条文上は「源泉徴収に係る定額減税のための申告書」により把握する。

ただ扶養控除等申告書には住民税に関する事項として16歳未満の扶養親族を記載する欄がある。これを用いても差し支えないようである(Q&A6-10参照)。住民税に関する事項は明確に法定された扶養控除等申告書の記載事項ではないため、このような建付けとなっていると思われる(記載事項を定めた所規73条1項参照)。

<源泉徴収に係る定額減税のための申告書の提出期限>

給与等の支払を受ける者は扶養控除等申告書では把握できない項目につき定額減税を受けるため、定額減税の対象となる給与等の最初の支払日までに「源泉徴収に係る定額減税のための申告書」を提出することができる(措法41条の3の7第5項)。提出が遅れた場合、扶養控除等申告書で把握できない項目については給与等の源泉徴収に係る源泉徴収の適用は受けることができない。最終的に年末調整又は確定申告で適用を受けることになる。

条文上は給与等の支払を受ける者が任意で提出することになっているが、実務上は適用漏れがないよう支払者側から提出を促した方がよいと考える。

<見込による適用>

同一生計配偶者も扶養親族も合計所得金額が48万円以下の者につき本人の税金から定額減税が適用される。6月時点では令和6年の合計所得金額は明らかでないが、見込により適用を行う。最終的に定額減税の対象とした者の合計所得金額が48万円を超えた場合、年末調整・確定申告により精算される。

⑤令和6年6月以降最初の給与等の支払日後に扶養親族の数等に移動があった場合

定額減税の額は扶養控除等申告書又は源泉徴収に係る申告書により計算する。これらは6月以降最初の給与等の支払時までに提出しなければならないため、最初の給与等の支払後に扶養親族の数等に移動があっても、給与等支払時の定額減税の額は変更しない。最初の給与等の支払日後に発生した扶養親族の数等の異動は年末調整又は確定申告により適用することとなる。

(2)住民税の特別徴収に係る定額減税

特別徴収される住民税の定額減税の計算等については市町村が行うため、給与等の支払者で行うことは基本的にない。通常通り市町村から届いた通知書に基づき特別徴収を行い、納付をするだけである。

ただ令和6年6月については特別徴収を行わないことに注意する必要がある(地法附則5条の10)。6月分の特別徴収を行わないため、住民税は11回分割で特別徴収を行うこととなる(地法附則5条の10)。そのため令和4年と令和5年の所得に大きな変動がなくても、7月以降の方が特別徴収額が大きくなる可能性がある。

3.年末調整と定額減税

(1)年末調整時の定額減税の対象者

年末調整時は合計所得金額が1,805万円を超えると見込まれる者は定額減税の対象とならない(措法41条の3の8第1項)。

(2)年末調整時の定額減税の額

以下の者一人につき3万円が定額減税の額となる(措法41条の3の8第2項)。

  • ①本人
  • ②同一生計配偶者
  • ③扶養親族

年末調整では従業員等から配偶者控除等申告書の提出を受ける。配偶者控除等申告書には控除対象配偶者の記載があるため、同一生計配偶者のうち本人の合計所得金額が1,000万円以下の者を把握することができる。しかし同一生計配偶者のうち本人の合計所得金額が1,000万円超の同一生計配偶者を把握することができない。そのため給与等の支払に係る定額減税と同様に給与等の支払を受ける者から「年末調整に係る定額減税のための申告書」の提出を受け、把握することとなる(措法41条の3の8第4項)。条文上は16歳未満の扶養親族も同様に「年末調整に係る定額減税のための申告書」により把握する。