1.基本的な内容
内国法人が解散した場合において、残余財産がないと見込まれるときは、その清算中に終了する事業年度前の各事業年度において生じた欠損金額を基礎として計算した金額相当額は、当該各事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入する(法法59条4項)。
以下この規定の適用を受けようとする事業年度を適用年度という。
2.残余財産がないと見込まれること
(1)判断基準
典型的には債務超過であれば残余財産がないと見込まれるとされる(法基通12-3-8)。
残余財産が0となるとき、すなわち資産と負債が同額であるときも残余財産がないと見込まれると判断される(質疑応答事例『解散法人の残余財産が零となる事業年度の「残余財産がないと見込まれるとき」(法法59④)の判定について』)。
実態貸借対照表に基づいて判断するため、未払法人税等を考慮することにより残余財産がなくなる場合でも、期限切れ欠損金を損金に算入することができる(質疑応答事例「解散法人の残余財産がないと見込まれる場合の損金算入制度(法法59④)における「残余財産がないと見込まれるとき」の判定について」)。
(2)判断時期
残余財産がないと見込まれるかどうかの判定は、法人の清算中に終了する各事業年度終了の時の現況による(法基通12-3-7)。
3.損金算入額
(1)基本的な損金算入額
以下の金額が損金の額に算入される(法令117条の5)。
適用年度終了の時における前事業年度以前の事業年度から繰り越された欠損金額の合計額 – 適用年度の所得の金額の計算上損金の額に算入される青色欠損金額を控除した金額
ただしこの規定及び最後事業年度における未払事業税の損金算入の規定の適用前の所得金額が限度である(法法59条4項かっこ書き)。
(2)資本金等の額がマイナスの場合
資本金等の額がマイナスの場合、損金算入額に資本金等の額の絶対値が加算される(法令117条の5第1号かっこ書き)。
4.申告
残余財産がないと見込まれる場合の期限切れ欠損金の損金算入の規定は、確定申告書、修正申告書又は更正請求書に損金の額に算入される金額の計算に関する明細を記載した書類及び残余財産がないと見込まれることを説明する書類の添付がある場合に限り、適用される(法法59条6項、法規26条の6第3号)。
残余財産がないと見込まれることを説明する書類としては例えば実態貸借対照表がある(法基通12-3-9)。実態貸借対照表とは、法人の有する資産及び負債の価額により作成される貸借対照表をいう(法基通12-3-9)。様式は定められていないため、適宜作成する必要がある。実態貸借対照表を作成する場合における資産の価額は処分価格による(法基通12-3-9(注))。法人の清算手続きでは現預金以外の資産はすべて処分されるため、処分価格を把握することは可能と思われる。ただし法人の解散が事業譲渡等を前提としたもので当該法人の資産が継続して他の法人の事業の用に供される見込みであるときには、当該資産が使用収益されるものとして当該事業年度終了の時において譲渡される場合に通常付される価額による(法基通12-3-9(注))。
税務署長は、残余財産がないと見込まれることを説明する書類の添付がない確定申告書、修正申告書又は更正請求書の提出があった場合においても、その書類の添付がなかったことについてやむを得ない事情があると認めるときは、残余財産がないと見込まれる場合の期限切れ欠損金の損金算入の規定を適用することができる(法法59条7項)。
5.通常清算時の留意点
残余財産がないと見込まれるのは典型的には債務超過である場合である。しかし会社が債務超過である場合、法務上は通常清算ではなく特別清算又は破産手続きによらなければならない。そのため通常清算時にこの特例が適用しようとする場合、法務上適正であるか検討する必要がある。