1.資産調整勘定等を計上する場合
以下の組織再編等が行われた場合、原則として資産調整勘定等が計上される(法法62条の8第1項)。
- 非適格合併
- 非適格分割
- 非適格現物出資
- 事業の譲受け
上記の組織再編成等のうち、非適格合併以外の組織再編等については分割法人、現物出資法人、事業譲渡をした法人が組織再編等の直前において行う事業及びその事業に係る主要な資産又は負債のおおむね全部が組織再編等により分割承継法人、被現物出資法人又は譲受け法人に移転をするものに限られる(法令123条の10第1項)。
資産調整勘定等の文脈では資産調整勘定等を計上する組織再編等を通常「非適格合併等」という。以下では資産調整勘定等を計上する組織再編等を「非適格合併等」をいう。
2.資産調整勘定
(1)意義
“非適格合併等”により交付した金銭の額及び金銭以外の資産の価額の合計額を非適格合併等対価額という。資産調整勘定とは原則として非適格合併等対価額が移転を受けた資産及び負債の時価純資産価額を超える部分の金額をいう(法法62条の8第1項)。負債には後述する退職給与負債調整勘定の金額及び短期重要負債調整勘定の金額を含む(法法62条の8第1項かっこ書き)。
(2)資産調整勘定の当初計上額
①基本
資産調整勘定の当初計上額は、原則として、非適格合併等対価額が移転を受けた資産及び負債の時価純資産価額を超える部分の金額である(法法62条の8第1項)。
資産等超過差額がある場合、資産等超過差額は除外される(法令123条の10第4項)。資産等超過差額とは以下の区分に応じそれぞれに定める金額をいう(法規27条の16第1項)。
非適格合併等対価資産の交付時価額が約定時価額の2倍を超えている場合 | 原則として非適格合併等対価資産の交付時価額から約定時価額を控除した金額。 ただし移転を受けた事業の価値に相当する金額として当該事業により見込まれる収益の額を基礎として合理的に見積もられる金額を算定し、かつ、その算定の根拠を明らかにする事項を記載した書類及びその算定の基礎とした事項を記載した書類を保存している場合、非適格合併等対価資産の交付時価額からその見積もった金額を控除した金額とすることができる。 |
非適格合併又は非適格分割である場合において、移転資産負債の純資産価額が非適格合併等対価額を超える部分の金額がその合併又は分割により移転を受ける事業により見込まれる収益の額の状況その他の事情からみて実質的にその合併又は分割に係る被合併法人又は分割法人の欠損金額に相当する部分から成ると認められる金額があるとき | その欠損金額に相当する部分から成ると認められる金額 |
②無対価の非適格合併等の場合
無対価の”非適格合併等”については例外が二つある。まず無対価の”非適格合併等”である場合において、”非適格合併等”により移転を受けた資産の取得価額の合計額が移転を受けた負債の額の合計額に満たない場合、例外的に資産調整勘定又は差額負債調整勘定は計上しない(法令123条の10第16項2号)。
また以下の関係がある無対価の”非適格合併等”が行われた場合において、その”非適格合併等”に際して一定の資産評定が行われたときは例外的に一定の算式で計算した金額が資産調整勘定の金額又は差額負債調整勘定の金額となる。
- 無対価合併で被合併法人及び合併法人の株主等の全てについて、その者が保有する被合併法人の株式の数の被合併法人の発行済株式等の総数のうちに占める割合とその者が保有する合併法人の株式の数のその合併法人の発行済株式等の総数のうちに占める割合とが等しい場合における被合併法人と合併法人との間の関係
- 無対価分割で分割法人の株主等及び分割承継法人の株主等の全てについて、その者が保有する分割法人の株式の数の当該分割法人の発行済株式等の総数のうちに占める割合とその者が保有する分割承継法人の株式の数の分割承継法人の発行済株式等の総数のうちに占める割合とが等しい場合における分割法人と分割承継法人との間の関係
- 無対価分割で分割法人が分割承継法人の発行済株式等の全部を保有する関係
上記のいずれかに該当する場合、次のイに掲げる金額がロに掲げる金額を超える場合はその差額を資産調整勘定の金額となり、イに掲げる金額がロ掲げる金額に満たない場合はその差額を差額負債調整勘定の金額となる(法令123条の10第16項1号)。
イ | その”非適格合併等”により移転を受けた事業に係る営業権の資産評定による価額 |
ロ | その”非適格合併等”により移転を受けた事業に係る将来の債務で内国法人がその履行に係る負担の引受けをしたものの額として財務省令で定める金額(財務省令は法人税法規則27条の16第4項) |
なお無対価の”非適格合併等”であっても例外に該当しない場合、原則通り、非適格合併等対価額が移転を受けた資産及び負債の時価純資産価額を超える部分の金額が資産調整勘定の当初計上額となる(国税庁「無対価の非適格分社型分割が行われた場合の差額負債調整勘定の金額(一定の資産評定が行われない場合)」)。
(4)資産調整勘定の取崩及び損金算入
資産調整勘定の金額を有する内国法人は、次の金額をその事業年度において減額しなければならない(法法62条の8第4項)。
資産調整勘定の当初計上額×その事業年度の月数※÷60
※非適格合併等の日の属する事業年度である場合、非適格合併等の日からその事業年度終了の日までの期間の月数
減額すべきこととなった資産調整勘定の金額に相当する金額は、その減額すべきこととなった日の属する事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入する(法法62条の8第5項)。
2.差額負債調整勘定
(1)意義
差額負債調整勘定とは非適格合併等対価額が移転を受けた資産及び負債の時価純資産価額に満たない部分の金額をいう(法法62条の8第3項)。負債には後述する退職給与負債調整勘定の金額及び短期重要負債調整勘定の金額を含む(法法62条の8第1項かっこ書き)。
(2)差額負債調整勘定の当初計上額
資産調整勘定と同様の例外がある。
(3)差額負債調整勘定の取崩及び益金算入
差額負債調整勘定の金額を有する内国法人は、次の金額をその事業年度において減額しなければならない(法法62条の8第7項)。
差額負債調整勘定の当初計上額×その事業年度の月数※÷60
※非適格合併等の日の属する事業年度である場合、非適格合併等の日からその事業年度終了の日までの期間の月数
減額すべきこととなった差額負債調整勘定の金額に相当する金額は、その減額すべきこととなった日の属する事業年度の所得の金額の計算上、益金の額に算入する(法法62条の8第8項)。
3.退職給与負債調整勘定
(1)意義
退職給与負債調整勘定とは、”非適格合併等”に伴い被合併法人等から引継ぎを受けた従業者につき退職給与債務引受けをした場合におけるその退職給与債務引受けに係る金額をいう(法法62条の8第2項1号)。
(2)当初計上額
退職給与負債調整勘定の当初計上額は、非適格合併等の時における引継ぎを受けた従業者に係る退職給付引当金の額相当額である(法令123条の10第7項)。
(3)取崩及び益金算入
退職給与負債調整勘定を有する内国法人は、退職給与引受従業者が退職その他の事由により従業者でなくなった場合又は退職給与引受従業者に対して退職給与を支給する場合、退職給与負債調整勘定の金額のうちこれらの退職給与引受け従業者に係る部分の金額を減額しなければならない(法法62条の8第6項1号)。
減額すべきこととなった退職給与負債調整勘定の金額に相当する金額は、その減額すべきこととなった日の属する事業年度の所得の金額の計算上、益金の額に算入する(法法62条の8第8項)。
4.短期重要負債調整勘定
(1)意義
短期重要負債調整勘定とは、”非適格合併等”により被合併法人等から移転を受けた事業に係る将来の債務で、その履行がその”非適格合併等”の日からおおむね三年以内に見込まれるものについて、内国法人がその履行に係る負担の引受けをした場合におけるその債務の額相当額をいう(法法62条の8第2項2号)。
(2)当初計上額
退職給与負債調整勘定の当初計上額は、基本的に”非適格合併等”により被合併法人等から移転を受けた事業に係る将来の債務で、その履行がその”非適格合併等”の日からおおむね3年以内に見込まれるものの額に相当する金額である(法法62条の8第2項2号)。
債務は移転を受けた事業の利益に重大な影響を与えるものに限られる(法法62条の8第2項2号かっこ書き)。また利益に重大な影響を与えるものであっても退職給与債務引受けに係るもの及び既にその履行をすべきことが確定しているものは除外される(法法62条の8第2項2号かっこ書き)。
また債務の額に相当する金額として移転を受けた事業につき生ずるおそれのある損失の額として見込まれる金額が”非適格合併等”により移転を受けた資産の取得価額の合計額の20%相当する金額を超えていなければ計上できない(法令123条の10第8項)。
(3)取崩及び益金算入
短期重要負債調整勘定を有する内国法人は短期重要債務見込額に係る損失が生じた場合、短期重要負債調整勘定の金額のうちその損失の額に相当する金額を減額しなければならない(法法62条の8第6項2号)。ただし”非適格合併等”の日から3年が経過した場合は短期重要負債調整勘定の金額を減額しなければならない(法法62条の8第6項2号)。また自己を被合併法人とする合併を行う場合又はその残余財産が確定した場合も短期重要負債調整勘定の金額を減額しなければならない(法法62条の8第6項2号)。
減額すべきこととなった短期重要負債調整勘定の金額に相当する金額は、その減額すべきこととなった日の属する事業年度の所得の金額の計算上、益金の額に算入する(法法62条の8第8項)。
(4)賞与引当金等との関係
賞与は損失ではなく費用であるため、短期重要負債調整勘定とはならない(国税庁「事業の譲受けに伴い賞与支払債務の履行に係る負担を引き受けた場合の課税関係について」)。同様に考えれば、費用に係るものは短期重要負債調整勘定とすることはできない。