グループ通算制度における特定資産譲渡等損失額

1.概要

含み損がある資産は実質的に欠損金と同じである。譲渡等によりその含み損を実現させれば、欠損金と同様に課税所得を圧縮することができる。そのため法人税では含み損がある資産を保有する法人を合併等し、その後含み損を実現することで税負担を減らすことを防止するため、一定の規定を置いている。それらの規定では含み損を有する一定の資産を特定資産とし、その特定資産の譲渡等による損失を特定資産譲渡等損失額と呼称している。そして一定の場合に特定資産譲渡等損失額を損金不算入するなどに一定の制限を設けている。

グループ通算制度でも特定資産譲渡等損失額が3つの場面で出てくる。

  • 損益通算の対象となる欠損金額の特例(法法64条の6)
  • 特定資産譲渡等損失額の損金不算入(法法64条の14)
  • グループ通算制度開始又は加入した場合の欠損金の切捨て(法法57条8項)
    損益通算では一定の要件のもと特定資産譲渡等損失額に達するまでの金額は損益通算できないとされる。損益通算どころか、損金不算入できない場合もある。さらに特定資産譲渡等損失額に相当する欠損金が切り捨てられる場合もある。

2.横断整理

(1)対象となる法人

グループ通算制度における特定資産譲渡等損失額に関する規定の対象となるのは一定の要件を満たした時価評価除外法人のみである。時価評価除外法人でない法人は含み損のある資産を有していてもグループ通算制度開始前又は加入前に時価評価が行われ、含み損が実現する。そして実現した含み損は開始直前又は加入直前事業年度の損金の額に算入される。仮に欠損金となっても時価評価除外法人でない法人であるため、欠損金は切り捨てられグループ通算制度開始後又は加入後は含み損を有する資産の含み損を利用することはできない。そのためか時価評価除外法人でない法人は対象とされていない。

また時価評価除外法人のみが適用対象となりうるが、時価評価除外法人の中でもいわゆる5年超の支配関係がなく、共同事業要件を満たしていない時価評価除外法人のみが対象となる。

(2)5年超の支配関係

5年超の支配要件の内容は3つの規定でほとんど同一である。いずれも通算承認の効力が生じた日の5年前の日又は通算法人の設立の日のうちいずれか遅い日から通算承認の効力が生じた日まで継続してその通算法人に係る通算親法人との間に支配関係がある場合として政令で定める場合、5年超の支配要件が満たされ、特定資産譲渡等損失額に関する規定は適用されない。(法法64条の6第1項、64条の14第1項、57条8項)。

詳細は政令で定められている。

損益通算の対象となる欠損金額の特例法令131条の8第1項
特定資産譲渡等損失額の損金不算入法令131条の19第1項
グループ通算制度開始又は加入した場合の欠損金の切捨て法令112条の2第3項

このうち特定資産譲渡等損失額の損金不算入の規定については損益通算の対象となる欠損金額の特例の政令の定めが準用されており、内容は同一である。グループ通算制度開始又は加入した場合の欠損金の切捨てについては準用されていないが、内容はほとんど一緒である。

(3)共同事業要件

共同事業要件の内容は3つの規定でほぼ同一である。開始時・加入時の繰越欠損金の切捨てにおける共同事業要件の定義が他の規定でも読み替えられ準用されている(法令112条の2第4項、法令131条の8第2項、法令131条の19第2項)。ここではグループ通算制度開始時・加入時の繰越欠損金の切捨てにおける共同事業要件をベースに記載する。

共同事業要件という名称の通り通算前事業と親法人事業が相互に関連することが求められている(法令112条の2第4項1号)。通算前事業とは、通算法人又は通算承認日の直前においてその通算法人との間に完全支配関係がある法人の通算承認日前に行う事業のうちのいずれかの主要な事業をいう。親法人事業とは、通算親法人又は通算承認日の直前においてその通算親法人との間に完全支配関係がある法人の通算承認日前に行う事業のうちのいずれかの事業をいう。親法人事業については主要な事業という制限はない。通算前事業と親法人事業が相互に関連していなければ、共同事業要件は満たされないが、他にも共同事業要件の要件がある。具体的には以下の①から③までの要件を満たす場合又は①と④若しくは⑤の要件を満たす場合、共同事業要件を満たし、特定資産譲渡等損失額に関する規定は適用されない(法令112条の2第4項)。

  • ①通算前事業と親法人事業とが相互に関連するものであること
  • ②「通算前事業」と「通算前事業と関連する親法人事業」のそれぞれの売上金額、通算前事業と親法人事業のそれぞれの従業者の数又はこれらに準ずるものの規模の割合がおおむね5倍を超えないこと
  • ③「親法人事業と関連する通算前事業」が通算法人支配関係発生時から通算承認日まで継続して行われており、かつ、通算法人支配関係発生時と通算承認日におけるその通算前事業の規模の割合がおおむね2倍を超えないこと。通算支配関係発生時とは、時価評価除外法人である通算法人が通算親法人との間に最後に支配関係を有することとなった時をいう。
  • ④通算承認日の前日の通算前事業を行う法人の特定役員で、通算親法人との間に最後に支配関係を有することとなった日前においてその通算前事業を行う法人の役員又はこれらに準ずる者であった者の全てが通算完全支配関係を有することとなったことに伴つて退任をするものでないこと。特定役員とは、社長、副社長、代表取締役、代表執行役、専務取締役若しくは常務取締役又はこれらに準ずる者で法人の経営に従事している者をいう。
  • ⑤時価評価除外法人に該当する通算法人が次に掲げる法人のいずれかに該当すること。
    • 通算親法人が法人との間に通算親法人による完全支配関係を有することとなった場合で、かつ、通算親法人又は他の通算法人とその法人とが共同で事業を行う場合として政令で定める場合に該当する場合におけるその法人
    • 株式交換等により通算親法人との間に通算完全支配関係を有することとなつた株式交換等完全子法人

(4)新たな事業の開始

特定資産譲渡等損失額の損金不算入とグループ通算制度開始又は加入した場合の欠損金の切捨ての規定は新たな事業を開始したことが要件となっている。新たな事業を開始していなければ、この2つの規定は適用されない。損益通算の対象となる欠損金額の特例は新たな事業を開始したことは要件となっていないため、新たな事業を開始していなくても適用される。

(5)適用期間

それぞれの規定が適用される期間は異なる。

①損益通算の対象となる欠損金額の特例

次のうちいずれか早い日までの期間だけ適用される。

  • 通算承認の効力が生じた日から同日以後3年を経過する日
  • 通算法人がその通算法人に係る通算親法人との間に最後に支配関係を有することとなった日以後5年を経過する日

②特定資産譲渡等損失額の損金不算入

次のうちいずれか早い日までの期間だけ適用される。

  • 通算承認の効力が生じた日と新しい事業を開始した日の属する事業年度開始の日とのうちいずれか遅い日からその効力が生じた日以後3年を経過する日
  • 支配関係発生日以後5年を経過する日

③グループ通算制度開始又は加入した場合の欠損金の切捨て

条文上適用期間の定めはないため、要件を満たした時点で対象となる欠損金が切り捨てられる。ただし既に損金の額に算入された欠損金は切捨ての対象とならない(法法57条8項1号かっこ書き、法令112条の2第5項、112条5項2号)。また切捨ての対象となるのはグループ通算制度開始前の欠損金であり、欠損金には繰越期間の制限があるため、実質的に適用期間はあるといえる。