1.適格請求書の記載事項等
(1)記載事項
①概要
適格請求書には以下の事項を記載しなければならない(消法57条の4第1項)。
- ①適格請求書発行事業者の氏名又は名称及び登録番号
- ②課税資産の譲渡等を行った年月日
- ③課税資産の譲渡等に係る資産又は役務の内容(当該課税資産の譲渡等が軽減対象課税資産の譲渡等である場合には、資産の内容及び軽減対象課税資産の譲渡等である旨)
- ④課税資産の譲渡等に係る税抜価額又は税込価額を税率の異なるごとに区分して合計した金額及び適用税率
- ⑤税率ごとに区分した消費税額等
- ⑥書類の交付を受ける事業者の氏名又は名称
②適格請求書発行事業者の氏名又は名称及び登録番号
<屋号等の利用>
適格請求書を交付する事業者を特定できれば、屋号や省略した名称でよい(Q&A問55)。
<取引先コード>
取引先コード表などが共有され、買手において取引先コードにより事業者を特定できる場合、取引先コードの記載でよい(Q&A問56)。
③税率ごとに区分した消費税等
<基本>
消費税等の端数処理は、一の適格請求書につき、税率ごとに一回行う(消令70条の10)。
<複数の取引につき一の適格請求書を交付する場合>
取引のもととなった契約書等に消費税等の記載があっても、適格請求書ごとに消費税等を計算し、端数処理を行う。そのため契約書等の消費税額等の合計と適格請求書の消費税額等にずれが生じる場合がある(Q&A問67参照)。
④軽減税率の適用対象となる取引がない場合
特段の記載は不要であり、「8%対象 0円(消費税0円)」といった記載は不要である(Q&A問74)。
(2)複数の書類による適格請求書の記載事項の充足
①内容
買手に複数の書類が交付される場合において、交付された書類相互の関連が明確であり、適格請求書の交付対象となる取引が正確に認識できる場合、複数の書類により適格請求書の記載事項を満たすことができる(消基通1-8-1)。
②具体例
- 日々の取引の内容を納品書に記載し、請求書にその他の記載事項を記載するとともに納品書番号を記載する
- 登録番号のみ買手に通知し、請求書にその他の記載事項を記載する
日々の取引の内容を納品書に記載し、請求書にその他の記載事項を記載するとともに納品書番号を記載する
登録番号のみ買手に通知し、請求書にその他の記載事項を記載する
③消費税額等の端数処理
納品書等に「課税資産の譲渡等の税抜価額又は税込価額を税率ごと区分して合計した金額及び適用税率」と「税率ごとに区分した消費税額等」の記載をした場合、納品書等ごとに端数処理を行う(Q&A問67)。
④書面と電磁的記録による適格請求書
書類と電磁的記録の関連性が明確である場合、書類と電磁的記録の全体により、適格請求書の要件を満たすことができる(Q&A問72)。
(3)返品や値引き等の売上に係る対価の返還等を行った場合
①原則
売上げに係る対価の返還等を行った場合、適格請求書発行事業者は、当該売上げに係る対価の返還等を受ける他の事業者に対して、適格返還請求書を交付しなければならない(消法57条の4第3項)。
②適格返還請求書が不要な場合
売上げに係る対価の返還等に係る税込価額が1万円未満である場合、適格返還請求書の交付義務は免除される(消令70条の9第3項2号)。
③値引きの時期と対応する処理
値引きの時期が課税資産の譲渡等を行う前か後かで処理が異なる(Q&A問70)。
課税資産の譲渡等を行う前に値引きを行った場合 | 課税資産の譲渡等の対価の額から直接減額する |
課税資産の譲渡等を行った後に値引きを行った場合 | 売上げに係る対価の返還等として処理する |
課税資産の譲渡等を行う前か後かについて厳密な区分が困難である場合 | 上記のいずれかで処理する |
(4)売手が負担する振込手数料相当額
①売手が振込手数料相当額の売上値引きをしたとする処理と②売手が買手から役務提供を受けたとする処理、③買手が振込手数料を立替払いしたものとする処理がある(Q&A問29参照)。
売手が振込手数料相当額の売上値引きをしたとする処理では原則として適格返還請求書の交付が必要となるが、1万円未満であれば交付義務が免除される。
売手が買手から役務提供を受けたとする処理では買手が原則としてインボイスを交付しなければならないが、売手が仕入明細書等を作成し買手の確認を受けることもできる。
買手が振込手数料を立替払いしたものとする処理では、買手が立替金請求書等を交付しなければならない。ATMは自動販売機特例の適用を受けることができる。
(5)交付を受けた適格請求書に誤りがあった場合の対応
①売手側
適格請求書を交付した適格請求書発行事業者は、これらの書類の記載事項に誤りがあった場合、適格請求書を交付した相手方に対して、修正した適格請求書を交付しなければならない(消法57条の4第4項)。
誤りがあった事項を修正し、改めて記載事項のすべてを記載したものを交付する方法のほか、当初に交付したものとの関連性を明らかにし、修正した事項を明示したものを交付する方法などが考えられる(Q&A問33)。
②買手側
買手である課税事業者は自ら適格請求書への追記や修正を行うことができない(Q&A問92)。
買手において適格請求書の記載事項の誤りを修正した仕入明細書等を作成し、売手である適格請求書発行事業者の確認を受けて仕入税額控除をすることができる(Q&A問92参照)。受領した適格請求書に自ら修正を加え、その修正した事項について売手に確認を受けることで、修正した書類を保存する方法も差し支えない(お問い合わせの多いご質問Q6)。例えば適格請求書に修正を加え「訂正事項につき11月1日先方確認済み」といった文面を記載する。
③継続した取引における修正した適格請求書等の交付方法
請求書に誤りのあった月の翌月の請求書において継続的に調整している場合、その調整により修正した適格請求書の交付があったものと取り扱って差し支えない(Q&A問34)。
(6)値増金(ねましきん)に係る適格請求書
値増金についても元々の工事代金の適格請求書とは別に適格請求書を交付しなければならない(Q&A問35)。
(7)課税対象外取引の記載
課税対象外の取引について適格請求書等に併せて記載することもできる(お問い合わせの多いご質問Q3)。
(8)適格請求書の交付時期
課税資産の譲渡等を行う前であっても適格請求書を交付することができる(Q&A問39)。従って対価を前受した場合、対価の受領時に適格請求書を交付することができる。