インボイス制度と仕入税額控除

1.適格請求書による仕入税額控除
(1)意義
インボイス制度が開始された2023年10月1日以後仕入税額控除をするに原則として適格請求書発行事業者が発行したインボイスの交付を受け、保存しなければならない。

(2)買手によるインボイスの適正性の確認
①確認
すべての取引の都度、確認が必要となるものではなく、取引先の規模や関係性、取引の継続性などを踏まえ、事業者において確認の頻度等を判断すればよい(適格請求書等保存方式の円滑な導入等に係る関係府省庁会議(2023年8月15日実施)資料 P.7)。

②適格請求書発行事業者公表サイトの検索結果とレシート表記が異なる場合
事業者の名称は屋号や省略した名称でもよいため、登録番号の有効性が確認できれば、一義的には有効な適格請求書等として取り扱って差し支えない(お問い合わせの多いご質問Q2)。

(3)クレジットカードの明細
クレジットカードの明細はインボイスの代わりとならない。なおインボイス制度導入前においても、仕入税額控除をするには帳簿及び請求書等の保存が必要であった。しかしクレジットカードの明細は売手が作成したものではないため、仕入税額控除のための請求書等には該当しない。インボイス制度開始前においてもクレジットカードの明細は仕入税額控除を受けるための書類ではなく、売手が作成した請求書等の保存が必要であった。

2.仕入明細書等による仕入税額控除
(1)概要
インボイスに代えて仕入明細書等により仕入税額控除をすることができる(消法30条9項3号参照)。

(2)相手方の確認
仕入明細書方式を利用する場合、その仕入明細書等につき相手方の確認を受けなければならない(消法30条9項3号括弧書)。

相手方の確認を受ける方法としては例えば以下のようなものが挙げられる(消基通11-6-6、Q&A問86)。

  • (1) 仕入明細書等への記載内容を通信回線等を通じて課税仕入れの相手方の端末機に出力し、確認の通信を受けた上で自己の端末機から出力したもの
  • (2) 仕入明細書等に記載すべき事項に係る電磁的記録につきインターネットや電子メールなどを通じて課税仕入れの相手方へ提供し、当該相手方からその確認をした旨の通知等を受けたもの
  • (3) 仕入明細書等の写しを相手方に交付し、又は当該仕入明細書等に記載すべき事項に係る電磁的記録を相手方に提供し、一定期間内に誤りのある旨の連絡がない場合には記載内容のとおりに確認があったものとする基本契約等を締結した場合における当該一定期間を経たもの。これには以下のものも含まれる。
    • ①仕入明細書等に「送付後一定期間内に誤りのある旨の連絡がない場合には記載内容のとおり確認があったものとする」旨の通知文書等を添付して相手方に送付し、又は提供し、了承を得る。
    • ②仕入明細書等又は仕入明細書等の記載内容に係る電磁的記録に「送付後一定期間内に誤りのある旨の連絡がない場合には記載内容のとおり確認があったものとする」といった文言を記載し、又は記録し、相手方の了承を得る。

3.帳簿のみで仕入税額控除が認められる場合
(1)帳簿のみで仕入税額控除が認められる場合
以下の場合、例外的にインボイスや仕入明細書等がなくても、帳簿のみの保存で仕入税額控除が認められる(消法30条7項括弧書、消令49条1項)。

  • ①適格請求書の交付義務が免除される3万円未満の公共交通機関による旅客の運送(公共交通機関特例、消令49条1項イ)
  • ②取引年月日以外の適格簡易請求書の記載事項が記載されている入場券等が使用の際に回収される(消令49条1項ロ)
  • ③適格請求書発行事業者でない古物営業を営む者からの古物の購入で、古物営業を営む者において棚卸資産に該当するものの購入(消令49条1項ハ(1))
  • ④適格請求書発行事業者でない質屋を営む者からの質物の購入で、質屋を営む者において棚卸資産に該当するものの購入(消令49条1項ハ(2))
  • ⑤適格請求書発行事業者でない宅地建物取引業を営む者からの建物の購入で、宅地建物取引業を営む者において棚卸資産に該当するものの購入(消令49条1項ハ(3))
  • ⑥適格請求書発行事業者でない者からの再生資源及び再生部品の購入で、購入者において棚卸資産に該当するものの購入(消令49条1項ハ(4))
  • ⑦適格請求書の交付義務が免除される3万円未満の自動販売機及び自動サービス機からの商品の購入等(自動販売機特例、消令49条1項ニ、消規15条の4第1号)
  • ⑧適格請求書の交付義務が免除される郵便切手類のみを対価とする郵便・貨物サービス(郵便ポストに差し出されたものに限る、消令49条1項ニ、消規15条の4第1号)
  • ⑨従業員等に支給する通常必要と認められる出張旅費等(通勤手当含む、出張旅費特例、消令49条1項ニ、消規15条の4第2号・3号)

(2)帳簿のみで仕入税額控除が認められる場合の帳簿の記載事項
①追加の記載事項
帳簿のみの保存で仕入税額控除が認められる場合、通常の記載事項に加え以下の事項を記載しなければならない。

  • ①帳簿のみの保存で仕入税額控除が認められる場合のいずれかの仕入れに該当する旨
  • ②仕入れの相手方の住所又は所在地(一定の者を除く)

②帳簿のみの保存で仕入税額控除が認められる場合のいずれかの仕入れに該当する旨の記載
例えば「3万円未満の鉄道料金」「入場券等」などと記載する。記号による記載も認められる。

③仕入れの相手方の住所又は所在地の記載が不要な場合
公共交通機関、自動販売機、出張旅費等については記載が不要となる(令和5年国税庁告示26号)。

(3)公共交通機関特例
①公共交通機関の範囲
船舶、バス又は鉄道に限られる(消令49条1項イ、消令70条9第2項1号参照)。そのためタクシーや飛行機を使用した場合は適用されない。

②対象となる支払の範囲
特急料金、急行料金及び寝台料金等は対象となる(消基通1-8-13)。入場料金、手回品料金、貨物留置料金等は対象とならない(消基通1-8-13)。

③3万円未満の判定単位
1回の取引の税込価額が3万円未満かどうかで判定を行う(消基通1-8-12)。運賃が1人当たり13,000円であっても、4人分の運送の役務提供をまとめて受ける場合、本特例の適用はない(Q&A問43)。

④出張旅費特例との関係
出張旅費特例の適用ができる場合、選択適用できる。

公共交通機関特例が適用できない場合でも、出張旅費特例の要件を満たしていれば帳簿のみの保存で仕入税額控除ができる。

(4)自動販売機特例
①特例の対象
特例の対象となる取引は機械装置のみにより課税資産の譲渡等が完結するものに限られる(消基通1-8-13)。一般的に以下のように整理できる(Q&A問47)。

コインロッカー 対象となる
コインランドリー 対象となる
ATM 対象となる
コンビニ等のセルフレジ 対象とならない
コインパーキング 対象とならない

(5)出張旅費特例
①実費精算
実費精算の場合でも出張等に通常必要であると認められる部分については、適用できる(お問い合わせの多いご質問Q11)。

②出張旅費を会社が直接支払っている場合
法人カードにより支払いをしている場合など、会社が直接対価を支払っていると認められる場合には、適用できない(お問い合わせの多いご質問Q11)。

③出向社員・派遣社員への適用
出向社員・派遣社員の出張旅費等のうち派遣元企業等に支払うものは対象とならない。派遣元企業等を通じて派遣社員等に支払われるものは派遣先企業等で出張旅費特例の対象として差し支えない(お問い合わせの多いご質問Q15)。

④内定者への適用
内定者のうち、企業との間で労働契約が成立していると認められる者に対して支給する交通費については出張旅費特例の対象として差し支えない(お問い合わせの多いご質問Q15)。労働契約が成立しているかどうかは採用内定通知を受け、入社誓約書等を提出している等の状況を踏まえて判断する。

⑤採用面接者
採用面接者は出張旅費特例の対象とならない(お問い合わせの多いご質問Q15)。

4.その他の留意点
(1)従業員による立替払い
適格簡易請求書であったとしても宛名として従業員の氏名が記載されている場合、従業員が作成した立替金精算書の交付を受け、その保存をしなければならない(お問い合わせの多いご質問Q10)。ただし従業員名簿等(従業員が会社に所属していることが明らかとなる名簿等)があり、適格簡易請求書の宛名が従業員であれば、適格簡易請求書と従業員名簿等の保存をもって仕入税額控除をすることができる(お問い合わせの多いご質問Q10)。

(2)福利厚生費の一部を従業員負担としている場合
適格請求書には全額記載し、仕入税額控除は会社負担分のみ行う(お問い合わせの多いご質問Q16)。

(3)見積もりによる仕入税額控除
課税仕入に係る支払対価の額が確定していない場合において、見積額により仕入税額控除をするときは、原則として見積額による適格請求書等が必要である。ただし適格請求書発行事業者との間にお手継続して行われる取引については、後日交付される適格請求書の保存を条件として、仕入税額控除することができる(消基通11-6-8)。

(4)切手等の購入時の仕入れ税額控除
切手等に係る帳簿のみ保存で仕入税額控除できる場合に該当するときは、対価を支払った日の属する課税期間の課税仕入れとすることができる(消基通11-3-7)。

5.インボイス制度の仕入税額控除に関する経過措置
(1)概要
免税事業者から仕入れを行った場合の経過措置と一定規模以下の事業者に係る経過措置がある。

(2)免税事業者から仕入れを行った場合の経過措置
①内容
仕入の時期に応じ、仕入税額相当額にそれぞれの割合を乗じた金額を仕入税額とみなして仕入税額控除することができる。

2023年10月1日から2026年9月30日 仕入税額相当額の80%
2026年10月1日から2029年9月30日 仕入税額相当額の60%

②請求書等の保存
区分記載請求書等と同様の事項が記載された請求書等を保存しなければならない。

  • ①書類の作成者の氏名又は名称
  • ②課税資産の譲渡等を行った年月日
  • ③課税資産の譲渡等に係る資産又は役務の内容(課税資産の譲渡等が軽減対象資産の譲渡等である場合、資産の内容及び軽減対象資産の譲渡等である旨)
  • ④税率ごとに合計した課税資産の譲渡等の税込価額
  • ⑤書類の交付を受ける当該事業者の氏名又は名称

③かっこ書きの「軽減対象資産の譲渡等である旨」及び④の「税率ごとに合計した課税資産の譲渡等の税込価額」については、受領者が自ら請求書等に追記することができる(お問い合わせの多いご質問Q5)。

③インボイスの交付がない場合
取引の相手方が適格請求書発行事業者であっても、この経過措置の適用を受けることができる(お問い合わせの多いご質問Q7)。例えば適格請求書発行事業者から適格請求書の交付が受けられない場合であっても、この経過措置の適用を受けることができる。

(3)一定規模以下の事業者に係る経過措置
①経過措置の内容
基準期間における課税売上高が1億円以下又は特定期間における課税売上高が5,000万円以下である事業者が、2023年10月1日から2029年9月30日までの間に国内において行う課税仕入れについて、当該課税仕入に係る支払対価の額(税込)が1万円未満である場合、帳簿のみの保存により仕入税額控除を受けることができる(28年改正法附則53条の2、30年改正令附則24条の2第1項)。

この経過措置の適用を受ける場合、帳簿には「経過措置の適用を受ける課税仕入である旨」を記載しなければならない。これは記号等による表示でもよい(Q&A問113)。

②1万円未満の判定単位
一回の取引ごと判定を行う(Q&A問112参照)。5,000円の商品と7,000円の商品を別々に購入し、それぞれ請求書を受け取り、支払った場合は別々の取引となり、本経過措置の適用を受ける。5,000円の商品と7,000円の商品を同時に購入した場合は1つの取引となるため、本経過措置の適用を受けることができない。

③帳簿の記載事項
帳簿の記載事項については特段の定めがないため、通常と同様の事項を帳簿に記載する必要があるが、経過措置の適用がある旨の記載は不要である(Q&A問111参照)。

④基準期間のない課税期間
基準期間のない課税期間についても適用を受けることができる(Q&A問111参照)。

⑤免税事業者から仕入れを行った場合の経過措置との関係
免税事業者からの仕入れに係る経過措置を受けられる場合であっても、こちらの経過措置を受けることができる(Q&A問111参照)。