譲渡制限付株式報酬の損金算入要件

Ⅰ.譲渡制限付株式報酬の損金算入要件

譲渡制限付株式報酬の損金算入要件は支給対象が役員か従業員かで異なる。役員についてはさらに退職給与かどうかによっても異なる。

なお譲渡制限付株式報酬については損金算入の可否とは別に損金算入時期についても別段の定めがあるため、留意する必要がある。また不相当に高額な役員報酬等の損金不算入の規定も別途適用されることも留意する必要がある。

Ⅱ.譲渡制限付株式報酬を役員に対して支給する場合

1.譲渡制限付株式報酬が退職給与でない場合

(1)考え方

役員報酬は以下のいずれかに該当しないと損金に算入されない(法法34条1項)。

  • 定期同額給与
  • 事前確定届出給与
  • 業績連動給与

譲渡制限付株式報酬は定期同額給与にはなじまないため、事前確定届出給与か業績連動給与に該当しないと損金の額に算入されない。事前確定届出給与から業績連動給与に該当する役員報酬が除外されている(法法34条1項2号)。そのため業績連動給与に該当するか検討し、事前確定届出給与に該当するのか検討することとなる。業績連動給与に該当する場合、業績連動給与の損金算入要件を満たせば損金に算入される。事前確定届出給与に該当する場合、事前確定届出給与の損金算入要件を満たせば損金に算入される。なお業績連動給与のうち業績連動給与の損金算入要件を満たせず損金に算入することができないものであっても、業績連動給与に該当している以上、事前確定届出給与に該当しない。

ただし損金算入するにはいくつか前提条件がある。

(2)損金算入の前提条件

譲渡制限付株式報酬として交付する株式は適格株式でなければならない。適格株式とは、市場価格のある株式又は市場価格のある株式と交換される株式で、譲渡制限付株式報酬を支給する内国法人又はその関係法人が発行したものをいう(法法34条1項2号ロ)。金銭以外の資産が交付される業績連動給与は、交付する資産が適格株式又は適格新株予約権でなければ、損金に算入される業績連動給与に該当しない(法法34条1項3号かっこ書き)。事前確定届出給与も株式を交付する場合は当該株式が適格株式でなければ損金に算入されない(法法34条1項2号ロ)。従って譲渡制限付株式報酬として交付する株式が適格株式でなければ損金に算入されない。

また譲渡制限付株式による給与で無償で取得される株式の数が業績指標に応じて変動するものは、損金に算入されない(法基通9-2-16の2)。譲渡制限付株式による給与で無償で取得される株式の数が業績指標に応じて変動するものは、業績連動給与に該当する(法法34条5項)。この業績連動給与が損金に算入されるには、一定の要件を満たす必要がある。しかし無償で取得される株式の数が業績指標に応じて変動するものは損金に算入される業績連動給与に該当しない(法法34条1項3号イ、この点当初引っかかってしまったため、メモしておくと、法法34条1項3号イ条文は「交付される金銭の額若しくは株式若しくは新株予約権の数又は交付される新株予約権の数のうち無償で取得され、若しくは消滅する数の算定方法が~」となっている。これは次のように切れる。「『交付される金銭の額若しくは株式若しくは新株予約権の数』又は『交付される新株予約権の数のうち無償で取得され、若しくは消滅する数』の算定方法が~」。このように交付される株式の数のうち無償で取得され、又は消滅する数の算定方法は含まれていない。そのため無償で取得する株式の数が業績指標に応じて変動するものは損金に算入される業績連動給与に該当しない)。しかし損金に算入される業績連動給与であっても、業績連動給与である以上、事前確定届出給与にも該当しない。従って損金に算入されない。この取扱いは無償で取得される数が業績に関する指標等により変動する譲渡制限付株式による給与に関する実務が固まっていないため、税務で損金に算入するのは時期尚早とされたためである(平成29年度税制改正の解説P.304)。

役員の過去の役務提供の対価として譲渡制限付株式が交付される給与も事前確定届出給与として損金の額に算入されない(法基通9-2-15の2)。当該過去の役務提供に係る職務開始当初にその報酬額が確定していないため、事前確定届出給与とはいえないためである(法人税法基本通達逐条解説P.909)。また過去の役務提供の対価として支給する給与は業績連動給与にも通常該当しないと思われるので、損金に算入できないものと考える。

(3)特定譲渡制限付株式との関係

税務上の譲渡制限付株式は特定譲渡制限付株式とそれ以外のものに分かれる。特定譲渡制限付株式とは、譲渡制限付株式であって次に掲げる要件に該当するものをいう(法法54条1項)。

  • 当該譲渡制限付株式が役務の提供の対価として当該役務の提供を行う個人に生ずる債権の給付と引換えに当該個人に交付されるものであること
  • 当該譲渡制限付株式が実質的に当該役務の提供の対価と認められるものであること。

一般的な譲渡制限付株式報酬であれば通常特定譲渡制限付株式に該当するものと思われる。

この特定譲渡制限付株式による株式報酬のうち、無償で取得され、又は消滅する株式の数が役務の提供期間以外の事由により変動するものは業績連動給与に該当する(法法34条5項)。それ以外の特定譲渡制限付株式による株式報酬は事前確定届出給与に該当する余地がある。

特定譲渡制限付株式以外の譲渡制限付株式を以下「非特定譲渡制限付株式」とする。非特定譲渡制限付株式による株式報酬は利益の状況を示す指標等を基礎として算定される数の株式による給与として業績連動給与に該当する余地がある(法法34条5項参照)。それに対し事前確定届出給与は特定譲渡制限付株式による株式報酬のみに限られているので、非特定譲渡制限付株式による株式報酬は事前確定届出給与に該当しない(法法34条1項2号参照)。

(4)譲渡制限付株式報酬が事前確定届出給与に該当する場合の届出

事前確定届出給与は原則として納税地の所轄税務署長にその定めの内容に関する届出をしていなければ損金に算入することができない(法法34条1項2号イ)。ただし株式による給与で、将来の役務の提供に係るものは届出をしていなくとも損金に算入することができる(法法34条1項2号イかっこ書き)。特定譲渡制限付株式による株式報酬については、当該株式報酬が支給される役員の職務につき当該職務の執行の開始の日から1月を経過する日までにされる株主総会等の決議により、当該決議の日から1月を経過する日までに特定譲渡制限付株式を交付する旨の事前確定給与の定めをした場合、当該定めに基づいて交付される特定譲渡制限付株式による株式報酬は届出をしなくても、事前確定給与として損金に算入することができる(法法34条1項2号イかっこ書き、法令69条3項1号)。

2.譲渡制限付株式報酬が退職給与である場合

譲渡制限付株式報酬が退職給与に該当する場合もある。譲渡制限付株式報酬が退職給与に該当する場合において、その譲渡制限付株式報酬が業績連動給与に該当するときは業績連動給与の損金算入要件を満たさないと損金に算入されない(法法34条1項かっこ書き参照)。業績連動給与に該当しないときは特段の定めがないため、損金に算入される。

Ⅲ.譲渡制限付株式報酬を従業員に対して支給する場合

譲渡制限付株式報酬を従業員に対して支給する場合、損金算入については別段の定めがないため損金に算入される。ただし損金算入時期については前述の通り別段の定めがあるため、留意する必要がある。