1.概要
赤字の会社を買収し、その欠損金を利用して税金を減らすことが行われていた。そのため現在では赤字の会社を買収した場合において、一定の事由に該当するときは、その事由が発生するまでに生じた欠損金が使えなくなる規定が設けられた。この規定の対象となる法人を欠損等法人という。資産の含み損も実質的に欠損金であるため、欠損等法人には評価損資産を有する法人も対象となっている。また一定の要件を満たした場合、評価損資産の譲渡等による損失の額は損金の額に算入できなくなる規定も設けられた。
2.欠損等法人
欠損等法人とは他の者との間にその他の者による特定支配関係を有することとなった内国法人のうち一定の要件を満たすものである。特定支配関係とは、他の者が内国法人の発行済株式又は出資の総数又は総額の50%超の数又は金額の株式又は出資を直接又は間接に保有する関係その他の政令で定める関係をいう。内国法人が他の者による特定支配関係を有することとなった日を「支配日」といい、支配日の属する事業年度を「特定支配事業年度」という。他の者による特定支配関係を有することとなった内国法人のうち、さらに特定支配事業年度前の各事業年度において生じた欠損金又は評価損資産を有するものを「欠損等法人」という。
3.特定株主等によって支配された欠損等法人の欠損金の繰越しの不適用
(1)基本的内容
欠損等法人が一定期間内に一定の事由に該当した場合、一定の欠損金につき繰越控除ができなくなる。
(2)欠損金の繰越控除が適用されなくなる事由
欠損等法人につき一定期間内に以下の事由が生じた場合、欠損金の繰越控除が適用されなくなる。
- ①欠損等法人が支配日の直前において事業を営んでいない場合において、支配日以後に事業を開始すること
- ②欠損等法人が支配日の直前において営む事業(以下「旧事業」という)の全てを支配日以後に廃止し、又は廃止することが見込まれている場合において、旧事業の支配日の直前における事業規模のおおむね5倍を超える資金借入れ等を行うこと
- ③他の者又は他の者との間に政令で定める関係がある者(以下「関連者」という)が他の者及び関連者以外の者から欠損等法人に対する特定債権が取得されている場合において、欠損等法人が旧事業の支配日の直前における事業規模のおおむね5倍を超える資金借入れ等を行うこと
- ④①若しくは②の場合又は③の特定債権が取得されている場合において、欠損等法人が自己を被合併法人とする適格合併を行い、又は欠損等法人(他の内国法人との間にその他の内国法人による完全支配関係があるものに限る。)の残余財産が確定すること
- ⑤欠損等法人が特定支配関係を有することとなつたことに基因して、その欠損等法人のその支配日の直前の役員の全てが退任をし、かつ、その支配日の直前においてその欠損等法人の業務に従事する使用人(以下「旧使用人」という。)の総数のおおむね20%以上に相当する数の者がその欠損等法人の使用人でなくなった場合において、その欠損等法人の非従事事業(その旧使用人が当該支配日以後その業務に実質的に従事しない事業をいう。)の事業規模が旧事業の当該支配日の直前における事業規模のおおむね5倍を超えることとなること
- ⑥上記の事由に類するものとして政令で定める事由
(3)適用される期間
欠損等法人について一定期間内に上記の事由が生じた場合、欠損金の繰越控除が適用されなくなる。その期間は原則として支配日以後5年を経過した日の前日までの期間である。ただし特定支配関係を有しなくなった場合として政令で定める場合に該当したこと、欠損等法人の債務につき政令で定める債務の免除その他の行為があったことその他政令で定める事実が生じた場合には、これらの事実が生じた日までが適用される期間となる(法法57条の2第1項かっこ書き)。
(4)繰越控除が適用されなくなる欠損金の範囲
欠損金の繰越控除が適用されなくなる事由が生じた事業年度の前事業年度までに生じた欠損金につき欠損金の繰越控除が適用されなくなる(法法57条の2第1項)。
4.欠損等法人の特定資産譲渡等損失額の損金不算入
(1)基本的内容
欠損等法人の一定の期間において生ずる一定の資産の譲渡、評価換え、貸倒れ、除却その他の事由による損失の額として政令で定める金額は、その欠損等法人の各事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入しない(法法60条の3第1項)。
(2)適用される期間
欠損金の繰越控除が適用されなくなる事由が生じた事業年度開始の日から次のうちいずれか早い方の日までに一定の資産に係る譲渡等損失が生じた場合、その譲渡等損失の額は損金の額に算入しない(法法60条の3第1項)。
- 欠損等法人につき欠損金の繰越控除が適用できなくなるトリガーとなる事由が発生した事業年度開始の日から3年を経過する日
- 支配日以後5年を経過する日
欠損金の繰越控除が適用されなくなる事由が生じた事業年度開始の日から適用される可能性が生じるため、繰越控除の不適用の規定の適用を受けた後に適用される可能性が生じる。
(3)特定資産
すべての資産の譲渡等による損失の額が損金の額に算入できないのではなく、特定資産の譲渡等による損失の額のみが損金の額に算入できなくなる。特定資産とは、欠損等法人がその支配日の属する事業年度開始の日において有する資産等のうち、以下に掲げるもので、その支配日業年度開始日における価額とその帳簿価額との差額が欠損等法人の資本金等の額の2分の1に相当する金額と1,000万円とのいずれか少ない金額以上であるものをいう(法法60条の3第1項、法令118条の3第1項)。
- 固定資産
- 棚卸資産である土地(土地の上に存する権利を含む)
- 有価証券(売買目的有価証券・償還有価証券を除く)
- 金銭債権
- 調整勘定に係る譲渡損益調整資産
- 資産調整勘定の金額に係る資産
(4)譲渡等損失の額
譲渡等損失の額の計算については法人税法施行令118条の3第2項により、組織再編時の特定資産譲渡等損失額の計算を定めた法人税法施行令123条の8第4項及び5項が準用される。
(5)グループ通算制度との関係
グループ通算制度の開始・加入・離脱により時価評価の適用を受ける場合、その適用を受ける法人にこの特定資産譲渡等損失額の損金不算入の適用を受ける期間はその時価評価の適用を受ける事業年度終了の日までとなる(法法60条の3第1項)。