1.概要
ストックオプションが付与された場合、その条件により原則として付与時又は行使時に課税され、ストックオプションの行使により取得した株式を譲渡したときも課税される。ただし税制上優遇措置が定められており、優遇措置が適用される場合、ストックオプションの行使により取得した株式を譲渡したときのみ課税される。優遇措置が適用されるストックオプションを税制適格ストックオプションといい、優遇措置が適用されないストックオプションを税制非適格ストックオプションという。税制非適格ストックオプションというが、税務上の原則的な課税関係は税制非適格ストックオプションの方である。
2.原則的な課税関係(税制非適格ストックオプション)
(1)ストックオプション付与時の課税関係
付与を受けたストックオプションの付与時の時価とストックオプションの取得に要した金額の差額に対して課税される。ストックオプションを時価で取得していれば、差額が生じないため、結果として課税されない。
またストックオプションに譲渡制限が付されている場合、そのストックオプションを譲渡して所得を実現させることができないため、課税はされない(最高裁判所第三小法廷平成 16 年(行ヒ)第 141 号平成 17 年 1 月 25 日判決)。
(2)ストックオプション行使時の課税関係
ストックオプションの行使により株式を取得する。所得税では金銭以外の物又は権利その他経済的な利益をもって収入する場合には、その金銭以外の物又は権利その他経済的な利益の価額に対して課税が行われる(所法36条1項)。ストックオプションの行使により株式を取得するが、これによる経済的な利益の価額はストックオプション行使時の価額からそのストックオプションの取得価額と権利行使価額を控除した金額である(所令84条3項2号)。ストックオプションを無償で付与した場合、取得価額は0円であり、経済的利益は行使時の価額から権利行使価額を控除した金額となる。
ストックオプションの行使による経済的利益は給与所得として課税される。
(3)ストックオプションの行使により取得した株式等を譲渡した場合の課税関係
譲渡対価から株式の取得費と譲渡費用を控除した金額に対して20.315%の所得税・住民税が課税される(所得税15.315%、住民税5%)。取得費はストックオプション行使時の株式の時価である(所令109条1項3号)。
3.例外な課税関係(税制適格ストックオプション)
(1)税制適格ストックオプションの課税関係
税制適格ストックオプションは譲渡が禁止されているストックオプションのうち、一定の要件を満たすものをいう。譲渡が禁止されたストックオプションであるため付与時には課税されない。また優遇措置により税制適格ストックオプションの行使により株式を取得しても、その経済的利益については所得税は課税されない(措法29条の2第1項)。
税制適格ストックオプションの場合、ストックオプションの行使により取得した株式を譲渡した時点で譲渡所得に対して課税される。このとき譲渡対価から株式の取得費と譲渡費用を控除した金額に対して20.315%の所得税・住民税が課税される(所得税15.315%、住民税5%)。取得費はストックオプション行使時の払込金額である(所令109条1項3号、措法29条の2第8項、措令19条の3第21項、所令109条1項1号)。
(2)税制適格ストックオプションの要件
税制適格ストックオプションは以下の要件を満たす新株予約権である(措法29条の2第1項各号、措令19条の3第1項)。
- ①当該新株予約権は、発行会社の役員等に無償で付与されたものであること(措令19条の3第1項)
- ②当該新株予約権の行使は、当該新株予約権に係る付与決議の日後2年を経過した日から当該付与決議の日後10年を経過する日までの間に行わなければならないこと(当該付与決議の日において当該新株予約権に係る契約を締結した株式会社がその設立の日以後の期間が5年未満であることその他の財務省令で定める要件を満たすものである場合には、当該付与決議の日後15年を経過する日まで)
- ③当該新株予約権の行使に係る権利行使価額の年間の合計額が、1,200万円を超えないこと。
- ④当該新株予約権の行使に係る一株当たりの権利行使価額は、当該新株予約権に係る契約を締結した株式会社の株式の当該契約の締結の時における一株当たりの価額に相当する金額以上であること。
- ⑤当該新株予約権については、譲渡をしてはならないこととされていること。
- ⑥当該新株予約権の行使に係る株式の交付が当該交付のために付与決議がされた募集事項に反しないで行われるものであること。
- ⑦当該新株予約権の行使により取得をする株式につき、当該行使に係る株式会社と金融商品取引業者等との間であらかじめ締結された取決めに従い、金融商品取引業者等において、当該新株予約権の行使により取得した株式の保管等がされること
- ⑧当該契約により当該新株予約権を与えられた者は、当該契約を締結した日から当該新株予約権の行使の日までの間において国外転出をする場合には、当該国外転出をする時までに当該新株予約権に係る契約を締結した株式会社にその旨を通知しなければならないこと。
- ⑨当該契約により当該新株予約権を与えられた者に係る認定社外高度人材活用新事業分野開拓計画につき当該新株予約権の行使の日以前に認定の取消しがあった場合には、当該新株予約権に係る契約を締結した株式会社は、速やかに、その者にその旨を通知しなければならないこと。