非適格分割型分割の税務

1.分割承継法人の税務

(1)資産負債の取得価額

分割により取得した資産負債の取得価額は取得時の時価である。

(2)資産調整勘定等

分割法人の当該非適格分割の直前において行う事業及び当該事業に係る主要な資産又は負債のおおむね全部が当該非適格分割により当該非適格分割に係る分割承継法人に移転する場合、その他の要件を満たせば資産調整勘定等が生じる(法法62条の8、法令123条の10第1項)。

資産調整勘定等の詳細については別記事参照。

(3)資本金等の額

分割に伴って資本金の額が増加した場合、同額資本金等の額が増加する(法令8条1項1号)。

上記のほか移転資産・移転負債の純資産価額から当該分割型分割による増加資本金額等及び当該法人が有していた当該分割型分割に係る分割法人の株式に係る分割純資産対応帳簿価額を減算した金額が資本金等の額の増加額となる(法令8条1項6号)。移転資産・移転負債の純資産価額は以下の区分に応じそれぞれに定める金額である(法令8条1項6号)。

区分純資産価額の金額
②及び③以外の非適格分割型分割当該分割型分割により分割法人に交付した当該法人の株式その他の資産の価額の合計額
※分割対価資産の全てが分割法人の株主等に直接に交付される分割型分割にあっては、当該株主等に交付した当該法人の株式その他の資産の価額の合計額
分割法人の当該非適格分割の直前において行う事業及び当該事業に係る主要な資産又は負債のおおむね全部が当該非適格分割により当該非適格分割に係る分割承継法人に移転しない分割で、無対価分割以外の非適格分割型分割当該移転資産の価額から当該移転負債の価額を減算した金額
無対価分割で、分割法人の株主等及び分割承継法人の株主等の全てについてその者が保有する当該分割法人の株式の数の当該分割法人の発行済株式等の総数のうちに占める割合と当該者が保有する当該分割承継法人の株式の数の当該分割承継法人の発行済株式等の総数のうちに占める割合とが等しい非適格分割型分割当該移転資産の価額から当該移転負債の価額を控除した金額
※移転資産の価額と移転負債の価額には資産調整勘定等の金額を含む。

増加資本金額等とは、当該分割型分割により増加した資本金の額又は出資金の額並びに当該分割型分割により分割法人(分割対価資産の全てが分割法人の株主等に直接に交付される分割型分割にあっては、当該株主等)に交付した金銭並びに当該金銭及び当該法人の株式以外の資産の価額の合計額をいう(法令8条1項6号かっこ書き)。ただし適格分割型分割により分割法人に分割承継親法人株式を交付した場合は、その交付した分割承継親法人株式の当該適格分割型分割の直前の帳簿価額が増加資本金額等となる(法令8条1項6号かっこ書き)。

(4)利益積立金額

利益積立金額は変動しない。

3.分割法人の税務

(1)移転資産・移転負債の譲渡損益

内国法人が分割により分割承継法人にその有する資産又は負債の移転をしたときは、当該分割承継法人に当該移転をした資産及び負債の当該分割の時の価額による譲渡をしたものとして、当該内国法人の各事業年度の所得の金額を計算する(法法62条1項)。

(2)分割対価

分割対価は株主等に交付される。分割対価が株主等に直接交付される場合等については分割対価をその時の価額により取得し、直ちに株主等に交付したものとされる(法法62条の2第1項後段)。

(3)資本金等の額

資本金等の額が、分割法人の分割型分割の直前の資本金等の額に分割移転割合を乗じて計算した金額減少する(法令8条1項15号)。ただし当該分割型分割が適格分割型分割でない場合において、当該計算した金額が当該分割型分割により当該分割法人の株主等に交付した分割対価の価額を超えるときは、その超える部分の金額を減少額から減算する(法令8条1項15号かっこ書き)。

分割移転割合とは、次の①の金額のうちに②の金額の占める割合をいう(法令8条1項15号、法令23条1項2号)。

留意点
分割型分割の日の属する事業年度の前事業年度終了の時の資産の帳簿価額から負債の帳簿価額を減算した金額・負債には新株予約権及び株式引受権に係る義務を含む。
・当該分割型分割の日以前6月以内に中間申告対象期間について仮決算による中間申告書を提出し、かつ、その提出の日から当該分割型分割の日までの間に確定申告書を提出していなかった場合には、当該中間申告対象期間の終了の時が基準となる。
・基準となる当該終了の時から当該分割型分割の直前の時までの間に資本金等の額又は利益積立金額が増加し、又は減少した場合にはその増加した金額を加算し、又はその減少した金額を減算する。
分割型分割の直前の移転資の帳簿価額の合計額から移転負債の帳簿価額の合計額を控除した金額・当該金額が①に①の金額を超える場合において、①の金額がゼロ以上であるときは、①に掲げる金額とする。

なお分割法人は、分割型分割を行った場合には、当該株主等に対し、当該分割型分割に係る分割移転割合を通知しなければならない(法令119条の8第2項)。

(4)利益積立金額

利益積立金額が分割法人が当該分割型分割により当該分割法人の株主等に交付した金銭の額及び金銭以外の資産の価額の合計額から減少する資本金等の額を減算した金額が減少する(法令9条9号)。ただし特定分割型分割にあっては、当該特定分割型分割に係る分割法人が当該分割法人の株主等に交付したものとされる分割対価資産又は分割承継法人の株式若しくは出資の価額が減少額となる(法令9条9号かっこ書き)。

3.分割法人の株主の税務

(1)分割法人株式のみなし譲渡等

①みなし譲渡

内国法人が所有株式を発行した法人の行った分割型分割により分割承継法人の株式その他の資産の交付を受けた場合には、当該所有株式のうち当該分割型分割により当該分割承継法人に移転した資産及び負債に対応する部分の譲渡を行ったものとみなして、有価証券の譲渡損益の計算を行う(法法61条の2第4項)。

②譲渡対価の額

譲渡対価の額については後述するみなし配当の額を控除する。

③譲渡原価の額

分割型分割が金銭等不交付分割型分割に該当しないときは、当該分割型分割により分割承継法人の株式その他の資産の交付を受けたときにおける有価証券の譲渡損益の計算については、譲渡原価の額は分割純資産対応帳簿価額となる(法法61条の2第4項)。金銭等不交付分割型分割とは、分割対価資産として分割承継法人又は親法人のうちいずれか一の法人の株式以外の資産が交付されなかったものをいう(法法61条の2第4項)。ここでいう親法人とは、分割型分割の直前に当該分割型分割に係る分割承継法人と当該分割承継法人以外の法人との間に当該法人による完全支配関係がある当該法人をいう(法令119条の7の2第3項)。

分割純資産対応帳簿価額とは、所有株式を発行した法人の行ったその分割型分割の直前の当該所有株式の帳簿価額に当該分割型分割に係る分割移転割合を乗じて計算した金額をいう(法令119条の8第1項)。

当該分割型分割が金銭等不交付分割型分割に該当するときは、当該分割型分割により分割承継法人又は親法人の株式の交付を受けたときにおける有価証券の譲渡損益の計算については、譲渡対価の額及び譲渡原価の額はいずれもその所有株式の当該分割型分割の直前の分割純資産対応帳簿価額となる(法法61条の2第4項)。

②みなし配当

非適格分割型分割はみなし配当事由に該当する(法法24条1項2号)。みなし配当の額は分割対価の価額が当該分割型分割に係る分割法人の当該分割型分割の直前の分割資本金額等のうちその株主等である法人の持分に対応する部分の金額を超える場合におけるその超える部分の金額である(法法24条1項、法令23条1項2号)。分割資本金額等とは、当該分割型分割に係る分割法人の当該分割型分割の直前の資本金等の額に分割移転割合を乗じて計算した金額をいう(法令23条1項2号)。

(2)分割対価の取得価額

原則として取得時の時価。ただし金銭等不交付分割型分割により当該分割型分割に係る分割承継法人等の株式の交付を受けた場合には、その株式の取得価額は当該分割型分割に係る分割法人の株式の当該分割型分割の直前の帳簿価額に分割移転割合を乗じて計算した金額にみなし配当の金額と当該分割承継法人又は親法人の株式の交付を受けるために要した費用を加算した金額となる(法令119条1項6号)

4.具体例

(1)前提

分割承継法人A社
分割法人B社
分割法人の株主X社のみ
X社のB社に対する出資金額
=B社株式の簿価
40,000
B社の資本金等の額50,000
分割移転割合20%
移転資産の時価100,000
移転資産のB社における簿価80,000
移転負債の時価60,000
移転負債のB社における簿価60,000
分割対価(現金)70,000
分割による資本金の増加額0

また資産調整勘定が生じる分割とする。

(2)分割承継法人の税務仕訳

借方貸方
移転資産100,000移転負債60,000
資産調整勘定30,000現金70,000

※資本金等の額の増減額は0円。

(3)分割法人の税務仕訳

借方貸方
移転負債60,000移転資産80,000
現金70,000事業譲渡益50,000
資本金等の額10,000現金70,000
利益積立金額60,000

(4)分割法人の株主の税務仕訳

借方貸方
現金70,000B社株式8,000
受取配当60,000
有価証券譲渡益2,000